第81話

 


 


 


「あの・・・父さん。まだ、気が早いから。美琴姉さんと結婚したいけど、オレはまだ学生だし。進学して就職してからと思ってる。」


「優斗、私は・・・。」


「優斗クンは優斗クンなりに考えているんだね。」


「ああ。美琴姉さんを幸せにしたいと思っているから。」


オレは父さんの質問に考えていたことを説明した。


美琴姉さんには幸せになって欲しい。


だから、オレが美琴姉さんを幸せにするだけの経済力を得るまでは、美琴姉さんをオレにしばりつけることはしたくない。


「・・・大学行っても浮気しちゃダメだからね。」


美琴姉さんは上目遣いでこちらを軽く睨んできた。


「も、もちろん。」


居もしないオレの浮気相手に嫉妬するだなんて美琴姉さん可愛いんだけど。


思わず抱きしめそうになってしまうが、父さんがいたのを思い出して我慢する。


「優斗クン。金銭面ではボクがなんとでもしてあげるから。だから、今すぐ美琴ちゃんと結婚してもいいんだよ?なんなら、ボクの会社に入社しなよ。うん。それがいい。優斗クンと一緒に仕事が出来るなんて夢みたいだ。美琴ちゃんは絶対に嫌だって言って入社してくれなかったから寂しかったんだよ。ねえ。優斗クン。それで、どう?」


「へ?」


「あら。いい考えだわ。父さんの会社に入社するしないはいいとして、父さんが経済面で支えてくれるのなら安心よ。・・・それに、私も安心だもの。ぜったい、優斗が大学に入学したら優斗の周りに女の子が増えるのはわかってるんだから。」


また、父さんは突拍子もないことを言ってくる。


それに美琴姉さんは賛同しているようだ。


っていうか、その提案に乗ってしまったらオレって自分自身の経済力もないのに、大切な女性をしばりつけようとしているってことにならないか?


それもありなのかもしれないけれども、オレとしては、美琴姉さんが大切だから、オレなりの経済力をつけてから美琴姉さんと結婚したいんだ。


「オレ、絶対浮気はしないから。でも、父さんに経済的に頼るのは違う気がするんだ。人に頼るのではなくて、自分で美琴姉さんを幸せにしたい。美琴姉さんを自分で幸せにすることができないのなら、美琴姉さんを幸せにしてくれる人に託すのもオレは、厭わない。」


「優斗・・・。」


「優斗クン・・・。」


美琴姉さんと父さんの目をそれぞれ見つめながら、宣言する。


オレの強い意志を込めた視線に二人ともそれ以上なにも言えなくなったようで、沈黙してしまった。


「そこまで、美琴ちゃんのことを想ってくれているだなんて・・・。ボクはとても幸せだよ。そう思っているのならば、美琴ちゃんは絶対優斗クンに幸せにしてもらえる。ボクはそう確信したよ。」


そう言って父さんはにっこりと笑った。


よかった。父さんにオレは認めてもらえたようだ。


「・・・あれ?そう言えば、あれ?優斗クン、美琴ちゃんと結婚したいってことは、あれ?君たち自分たちが血の繋がってない姉弟だって知ってたの?え?あれ?」


父さんは落ち着いたかと思ったら、またすぐに焦りだした。


父さんの中ではオレと美琴姉さんは血の繋がった姉弟でいるという認識らしい。確かに直接父さんや母さんから美琴姉さんとオレが血の繋がらない兄弟だと聞かされた覚えも説明された覚えもない。


だから、父さんはまだオレが知らないと思っていたのだ。


「今更・・・。」


「そうね。今更ね。」


オレと美琴姉さんは呆れたようにため息をついた。


でも、同時に安心した。父さんはオレが美琴姉さんと本当の姉弟だったとしても、きっとオレたちのことを許してくれていたのだろうと。


そんなこんなで父さんとワイワイと喋っていると、


「ただいま。」


と、母さんが帰ってきた。


時計を見ると、まだ17時を少し過ぎたところだった。


どうやら母さんも仕事を早く片付けて帰って来たらしい。


「おかえりなさい。」


「おかえりなさい。」


「おかえり。」


「あら。旦那様ってばお帰りが随分早かったのね。古賀さんに迷惑かけていないかしら?」


「え。あ・・・。大丈夫だよ。古賀さんが帰るように言ってくれたから。はははっ。」


母さんは父さんが帰って来ていることに対してすかさず突っ込みをいれる。


すると父さんは罰が悪そうに頭を掻きながら答えた。


母さんの視線が鋭くなる。だけど、すぐにその視線を柔らかなものに変えてため息を一つついた。


「はあ。仕方がありませんわね。旦那様の大事な美琴と優斗のことですから。気になってしまうのは仕方のないことでしょう。」


「はははっ。そうなんだよねぇ。」


まあ、母さんも早く帰ってきたしね。人のことは言えないのだろう。


「美琴、優斗。朝はびっくりしてしまったわ。まあ、薄々そんな気はしていたけれども、まさか結婚を考えるまでとは思っていなかったの。びっくりしてしまったから気の利いたことを言えなくてごめんなさいね。本当なら、私も今日は休んで貴方たちの話を聞くべきだったわ。ごめんなさいね。」


そう言って母さんはオレたちに謝ってきた。


っていうか、母さん驚いてたの?いつも通りに見えたんだけど・・・。


 


 


 


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