第59話
「君が・・・エンディミオン様か?」
「えっ・・・あ、はい。」
ニャーネルさんがギルドの受付の仕事に戻った後、オレはマコッチと一緒にギルドでお茶を飲んでいた。
もうすぐミーシャさんがログインしてくるはずなので、それを待っているのだ。
マコッチと一緒にまったりとしていると、突然知らない男の人に声をかけられた。
しかも厳ついマッチョな男の人である。
そんな厳つい男の人に様をつけて呼ばれるのはちょっと・・・いやかなり違和感があるんだけど・・・。
「これを・・・受け取ってくれ。」
男の人はオレの目を見ずにズイッとオレに先ほどマコッチからもらったぬいぐるみと同じぬいぐるみを手渡してきた。
愛の告白・・・ではないな。
渡されたぬいぐるみは課金アイテムである悪だぬきのぬいぐるみなのだ。
どうやらこの男の人はオレにミーシャさんたちと別れて欲しいようである。
しかもこの悪だぬきのぬいぐるみはたちが悪いことに受け取り拒否ができないのだ。
受け取って欲しいと言われたら受け取りを拒否することができない。
男の人はオレに悪だぬきのぬいぐるみを渡してから涙を浮かべた目で睨みつけると、ダッシュでギルドから出て行った。
「あーあ。エンディミオン様ってば2つ目の悪だぬきのぬいぐるみを貰っちゃったね。」
マコッチはオレが悪だぬきのぬいぐるみを貰う光景をニヤニヤとした笑みを浮かべて見ていた。
そうして、声を弾ませて嬉しそうにそう言ってきた。
オレとしては嬉しくないが、マコッチとしてはオレがフリーになる可能性が高まることが嬉しいようだ。
そうだよな。
友達が恋人3人もいる状態だなんて普通の状態じゃないもんな。
一人に絞れってことだよな。
呆然と去っていく男の人を見つめていると、
「これ貰ってくれ。」
「これ・・・やる。」
「ニャーネルさん・・・なんでこんなやつと・・・。」
「・・・受け取れ。」
「俺はこんな奴に負けたのか・・・。」
「ニャーネルさん・・・。」
「エリアル様を取り戻すっ!!」
「えっ!?うわっ・・・。おっと・・・。」
次々とギルド内にいた男の人が悪だぬきのぬいぐるみを持ってオレの元へと競うようにやってきた。
そうして、次々と悪だぬきのぬいぐるみをオレに押し付けていく。
オレの周りには数分とたたないうちに悪だぬきのぬいぐるみの山ができていた。
「ぐっ・・・。こ、こんなに・・・。」
「エンディミオン様。これはまだ序の口だと思うよ。まだ20個くらいだし。夜になればログインするプレイヤーも増えるからもっといっぱい貰えるんじゃないかな?ニャーネルさんもエリアル様もこのゲーム内では人気があるし。」
「ぐぐぅ・・・。」
マコッチからの嬉しくない推理を聞かされてオレはその場に項垂れた。
☆☆☆
マコッチの推理はもれなく当たった。
ギルドでミーシャさんのことをマコッチと待っていると、途切れることなく悪だぬきのぬいぐるみを持って人がやってくる。
男の人だけではなく、中には女性も多数いた。
どうやらエリアルちゃんにもニャーネルさんにも女性のファンも多いようだ。
そんなわけでギルドでミーシャさんを待つことは止めた。
とてもじゃないが、気が休まらないからだ。
オレはマコッチと一緒に逃げるようにギルドを後にして、エリアルちゃんのお店に向かうことにした。
エリアルちゃんを都合よく使って悪いとは思うが、他に逃げる場所が見つからなかったのだ。
もちろん、オレをミーシャさんたちと別れさせようとしているマコッチは、ギルドにいることを提案していたがそんなの無視だ無視。
あんなにひっきりなしに人が来るのはかなりキツイものがある。
って、すでに悪だぬきのぬいぐるみは50個を超えているし・・・。
あんな短時間で50個を超えるということは今日だけで悪だぬきのぬいぐるみが100個集まってしまいそうだ。
「もう。あのまま行けば、今日中に破局イベント起こせたのに・・・。」
マコッチは不満気にそう呟いた。
「あのなぁ・・・。そんなにオレをミーシャさんたちと破局させたいのかよ。」
「うん。ニャーネルさんとは絶対破局させたいと思ってるよ。」
「そ、そっか・・・。ミーシャさんとエリアルちゃんのことはいいのか?」
「んー。嫌だけど、ニャーネルさんよりかはマシ。」
「そ、そっか。」
どうやらマコッチはニャーネルさんのことが嫌いなようです。
確かに振り回されっぱなしだしなぁ。
そんな会話をしながらエリアルちゃんのお店の近くに来ると、エリアルちゃんのお店の前に長蛇の列ができていた。
「・・・なんだ、コレ。」
「大盛況だねぇ。」
いつもはない長蛇の列にオレとマコッチは目を丸くした。
いつもはポツリポツリとしかお客が来ないというのにどうしたのだろうか。
オレは列の最後尾に立っている街の住人と思われる男性に声をかけることにした。
「すみません。この長蛇の列って何の列なんですか?なんか売り出してるんですか?」
「おまえ、知らないのか?」
「え?」
オレが声をかけると男性は驚いたように声を上げた。
「課金アイテムが追加されたんだよ。だからエリアル様に持ってきたんだ。エリアル様が恋人と別れるようにな。」
そう言って、男性はオレに悪だぬきのぬいぐるみを見せてきた。
「あ・・・ははっ。そういうことですか。」
「エリアル様が一人のものになるだなんて許せないからな。相手の男性がどこにいるかわからないからエリアル様に直接渡しに来たんだ。ここに集まっている連中はみんな同じ理由で集まってるんだ。」
「は・・・ははっ。」
ダメだ。もう笑うしかない。
乾いた笑いがオレの口から漏れる。
これって、オレがエリアルちゃんの恋人だって知られたらオレの元にも人が大量に押しかけてくるのだろうか。
そう思っていると、
「エンディミオン様っ!遅いわよ!!」
エリアルちゃんの声が辺りに響き渡ったのだった。
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