初めて出来た恋人はどうやら姉だったようです

第60話

エリアルちゃんのお店に行列を作っていた人たちが一斉にオレの方を見た。

沢山の視線がオレにグサグサと突き刺さる。

やばいっ・・・。

どうして、エリアルちゃんはオレの名を呼んだのだろうか。

って、聞かなくてもわかるぞ。

絶対にオレを巻き込もうとしたんだ。

「エンディミオン様。いらっしゃい。逃げないでよね？」

あまりに多くの人がオレの元に来そうだったので、思わずログアウトしようと思ったところ釘を刺すようにエリアルちゃんがにっこりとした笑みを浮かべてきた。

マコッチもオレの腕をガチッと捕まえている。

どうやら逃げることは許されないようだ。

「どうせ、これってニャーネルの仕業でしょ。って！！！なんでエンディミオン様ってばニャーネルとも恋人になってるのよ！！」

エリアルちゃんは「全部分かっているのよ。」とばかりに笑みを浮かべてたが、オレの交友関係を確認したのか、急に憤り始めた。

ニャーネルさんと恋人という関係になってしまったことに気づいてしまったようだ。

「は、はは。ニャーネルさんにハメられてしまいまして。」

「ハメられたですって！！？」

「ニャーネルさん、オレとミーシャさんの恋人関係を解消させようと躍起になってるんだよね。だから、ニャーネルさんの恋人にオレがなれば、オレの元に悪だぬきのぬいぐるみが集まって、破局イベントを起こしやすいようにさせようとしているみたいで・・・。」

「なによ、それ！！」

エリアルちゃんは目を吊り上げて怒っている。

「完全に私、とばっちりじゃないっ！もう！ニャーネルのところに行ってくるわ！」

「ちょっ！！ちょっと待ってエリアルちゃん！！ニャーネルさんのところにも悪だぬきのぬいぐるみを持った人たちでいっぱいだから、エリアルちゃんが行ったら・・・。」

「はあっ！？どこまで計画的なのっ！？」

エリアルちゃんは、ギッとギルドの方を見て声を荒げた。

うん。わかる。オレもできることならニャーネルさんに抗議したい。

ただ、彼女に抗議をしても無駄かもしれない。

彼女はきっとオレの抗議をスルッと聞き流してしまうだろう。

「ニャーネルさんだからね、目的のためには手段を選ばないようだよ。」

まあ、結果として課金アイテムが大量に購入されているようだから運営としてはウハウハなのかもしれないけどね。

「・・・なら、私はログアウトするわ。ほとぼりが冷めて下火になったころにまたログインすることにするわ。その頃には悪だぬきのぬいぐるみなんて廃れているでしょう。」

「えっ・・・。」

「キャッティーニャオンラインだけがゲームじゃないしね。」

エリアルちゃんは何でもないように言ってさっさとログアウトをしようとした。

まさか、エリアルちゃんがキャッティーニャオンラインから遠ざかるだなんて思わなくて思わずオレは驚いてしまう。

別にオレとの恋人関係が解消するまで悪だぬきのぬいぐるみを大量に押し付けられるだけだろうに、それさえ我慢すればいつもどおりキャッティーニャオンラインをプレイできるのに。

エリアルちゃんは潔い。

オレには出来なかった決断だ。

「それに・・・そうすればエンディミオン様との恋人関係も解消されないはずでしょ？だから、エンディミオン様もログアウトしなさい。それで下火になるまで待てばいいのよ。ね？」

「あ、ああ。」

エリアルちゃんはオレにもしばらくキャッティーニャオンラインにログインしないように告げてきた。

まあ、確かにそうすれば破局イベントなんておきずに済むのだろう。

残念だ。

このオンラインゲーム結構楽しみになってたんだけどな。

でも、別にキャッティーニャオンラインにアクセスしなくたってミーシャさんにもエリアルちゃんにもマコッチもリアルで知り合いだから会って会話することができるし、コミュニケーションについては特に問題ないかな。

まあ、問題と言えばニャーネルさんこと寧々子さんにも夏休み中は会わなければならないってことだよな。

ログインしてませんでした。なんてことが寧々子さんに知られたらどうなることか・・・。そこがちょっと心配だったりする。

寧々子さんのことだからなぁ。暴走しそうなんだよなぁ。

「聞いていたかしら？私はしばらくログアウトするわ。次に私がログインした時に私に悪だぬきのぬいぐるみなんて渡してみなさい。そんなことしたら永久にログアウトするからね！」

エリアルちゃんは周りにいたエリアルちゃんの信望者たちに向かってそう高らかに宣言した。

永久ログアウト。つまり、エリアルちゃんはキャッティーニャオンラインにアクセスしなくなるということであり、キャッティーニャオンラインではもうエリアルちゃんに会えなくなってしまうということだ。

周りに集まった人たちはそれぞれ驚愕の表情を浮かべていた。

そうして、互いに頷き合っている。

「「「「「「「エリアル様っ！私どもはもう二度とエリアル様に悪だぬきのぬいぐるみをプレゼントしないと誓いますっ！！だから、ログインしないだなんて言わないでくださいっっっ！！！」」」」」」」

 集まっていたエリアルちゃんの信者たちは息を合わせてそう叫んだ。

「そうね。他の人にも言っておいてちょうだいね。そうしたら、ログインするわ。」

 にっこりとエリアルちゃんは微笑んでそう言い切った。

その言葉に大きく頷く皆さん。

エリアルちゃんってば幼いみためなのに、人をまとめることができるなんてすごいなぁとオレは感心するのであった。