第58話

 


「ニャーネルさん。マコッチに悪だぬきのぬいぐるみを運営からプレゼントしていただけませんか?無理やり運営側であるニャーネルさんがマコッチにネズミのぬいぐるみをプレゼントしたから、マコッチがニャーネルさんと恋人同士になってしまったんですよね?なら、それを解除させるために、悪だぬきのぬいぐるみを購入させようというのはいかがなものでしょうか?社長さんが知ったらまた怒られてしまうのではありませんか?」


「うっ・・・。」


オレが思ったことをニャーネルさんに告げるとニャーネルさんは口ごもってしまった。


それもそうだろう。


無理やりネズミのぬいぐるみをマコッチに手渡して恋人にしておいて、解除するためには悪だぬきのぬいぐるみを購入するように仕向けるのはご法度だろう。


下手したら詐欺まがいの行為だ。


先日会った社長さんは意外と話がわかる人だったので、ニャーネルさんがこんなことをしていると知ったら激怒されると思う。


まあ、社長さん慌てるとポカやりそうだけどね。


それでも社長さんは常識のある人に見えたし、ニャーネルさんも気まずそうに視線を逸らしているので、怒られるのはわかっているのだろう。


っていうか、怒られるのがわかっていてやるっていうのもどうなんだろうか。


「どうでしょうか?」


「むぅ・・・。わかったわよ。運営からマコッチさんに悪だぬきのぬいぐるみをプレゼントするようにするわ。」


「ありがとうございます。学生にとって1000円というのは大金ですからね。」


「エンディミオン様!ありがとう!!」


ニャーネルさんは気まずそうに視線を逸らせながらも確かに頷いた。


「あ!届いたよ!!運営から悪だぬきのぬいぐるみ届いたよ!!ほら、見て!」


どうやらすぐに悪だぬきのぬいぐるみはマコッチの元に届いたようだ。


すぐに取り出して、悪だぬきのぬいぐるみをオレに見せてくる。


「悪だぬきって言うからどんなぬいぐるみなんだろうと思ったけど、意外と可愛いよね。」


そう言ってマコッチはにっこりと笑った。


「ほら、エンディミオン様。可愛いよね。」


「あ、ああ。意外と可愛いな。」


オレはマコッチに手渡された悪だぬきのぬいぐるみを受け取ってしげしげと眺める。


確かに目つきが悪くてサングラスをかけているが、どことなく可愛らしさも併せ持っている。


しばらくしげしげと眺めていたが、マコッチの視線がオレにずっと注がれていることに気が付いて、悪だぬきのぬいぐるみからマコッチへと視線を移す。


そうして、マコッチに悪だぬきのぬいぐるみを返す。


「ほら、返すよ。」


「えへっ。」


マコッチに悪だぬきのぬいぐるみを渡そうとしたが、なぜかオレの手元に帰って来てしまう。


先ほどのネズミのぬいぐるみと同様だ。


マコッチはてへぺろってしてるし。


って!!


オレ、もしかしてマコッチに嵌められた・・・?


そうだよな。


オレ、何を言っているんだろうか。


ニャーネルさんも随分素直にマコッチに運営から悪だぬきのぬいぐるみをプレゼントしたと思ったんだよ。


ただ、バツが悪くて素直にマコッチにプレゼントしたんだろうと思ってたんだけど、よくよく思い返してみれば、悪だぬきのぬいぐるみは恋人にはプレゼントできないんだった。


つまり、マコッチが悪だぬきのぬいぐるみを運営からプレゼントされても、それをニャーネルさんに渡すことはできない。


つまり、マコッチとニャーネルさんの恋人という関係は解消されないわけだ。


それなのに、なぜマコッチは嬉しそうなんだろうか。


そう考えると一つの結論がでる。


この悪だぬきのぬいぐるみは恋人同士が送り合うことはできない。


だが、自分の恋人ではない相手には渡すことができる。


つまり、この悪だぬきのぬいぐるみは自分の恋人と破局するためのイベントをおこすためのアイテムではなくて、自分でもなく自分の恋人でもない第三者の破局イベントをおこすためのアイテムということなのだろうか。


「えっ?オレ・・・ミーシャさんとの破局イベントが発生するってこと・・・?」


呆然としてそう呟いた。


「ピンポーン。そのとおりだよ~。あ、でもちょっと訂正させてね。エンディミオン様は現在、ミーシャとエリアル様と私と恋人関係にあるので、もれなくミーシャとエリアル様と私との破局イベントが発生します!ただ!それは悪だぬきのぬいぐるみを合計100個受け取った場合に発生するから、今すぐ発生するわけじゃないよ。」


ニャーネルさんが破局イベントについて説明してくれた。


どうやらすぐに破局イベントが発生するわけではないようだ。


悪だぬきのぬいぐるみを100個受け取ったら破局イベントが発生するらしい。


でも、100個って拒否しちゃえばいいんじゃないか。


というか、100人も知り合いいないしそんなに悪だぬきのぬいぐるみは集まらないだろう。


つまり、破局イベントを起こすのは限りなく不公平ってことでオーケーだろうか。


「えっ!?1個じゃないの!?100個必要なの!?」


「えっと、オレ知り合いのユーザ片手で数えられるくらいしかいないし、悪だぬきのぬいぐるみは100個集まらないから破局イベントなんて起きないと思っていいのかな。」


マコッチもまさか悪だぬきのぬいぐるみが100個も必要だとは思わなくてびっくりしているようだ。


そうだよな。


100個も悪だぬきのぬいぐるみを受け取るようなことはそうそうないだろうし。


一人が100個も購入すれば10万円もかかるだろう。


誰がそんなにお金をつんでまで破局させようというのだろうか。


まずあり得ないだろう。


「そう100個必要なのよ。でもって、同じ人から受け取れる悪だぬきのぬいぐるみは1個まで。つまり、100人のプレイヤーに悪だぬきのぬいぐるみをプレゼントされないと破局イベントは発生しませーん。」


「なんだ。ほとんど破局イベントは発生しないと思っていいんだな。」


「なぁんだ。がっかりぃー。」


ニャーネルさんの言葉に安心したオレとは真逆に、マコッチはズーンっと落ち込んでしまった。


・・・そんなにオレを破局させたいのか。マコッチは・・・。


「ん・ん・ん。甘いよエンディミオン様。エンディミオン様が恋人に選んだのは私にエリアル様にミーシャだよ。私とエリアル様には大量のファンがいるってことをお忘れなく。」


「あ・・・っ。」


そうだった。


ニャーネルさんもエリアルちゃんもファンが大量にいるんだった。


そんでもってきっと彼女たちと破局して欲しいと思っている男性プレイヤーは多いだろう。


それこそ100人は軽くいると思う。


そんなプレイヤーはきっとニャーネルさんやエリアルちゃんではなく、オレに悪だぬきのぬいぐるみを贈ってくるだろう。


なんたってオレには恋人が3人もいるんだ。


きっと確実にオレが狙われる・・・。


 


 


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