第51話
「黒幕って・・・。どこからそんな話がでてきたのよ。」
「そうだぞ。寧々子さん。オレの知る限り黒幕なんてキャッティーニャオンラインには存在しないはずなんだが・・・。」
美琴姉さんと社長さんが寧々子さんに突っ込む。
っていうか、社長さんは寧々子さんのこと寧々子さんって言っているんだね。
なんだか、社長も寧々子さんには低姿勢のように見える。
「く・ろ・ま・く、は必要だわ!絶対いた方がストーリー的に面白くなるわよ!」
寧々子さんが右手に力を入れて、力説している。
「ストーリーが面白くなると言われても・・・。」
「キャッティーニャオンラインにはメインストーリーというストーリーは存在しないんだがなぁ。なんでも自由に異世界生活を楽しもうがコンセプトだからなぁ。」
社長も美琴姉さんもストーリーについては考えていなかったようである。
やっぱり、キャッティーニャオンラインにストーリーというストーリーはなかったのか。
そうだよな。
かなり自由度の高いゲームのようだったし。
「まあ、イベント的にショートストーリーは組み込んでるけどなぁ。」
「そうねぇ。そのイベントの黒幕ってこと?」
「違うわよ。メインストーリーの黒幕なのよ!」
「うーん。」
「だから、キャッティーニャオンラインにはメインストーリーが・・・。」
寧々子さんは力説しているが、社長と美琴姉さんにはいまいちピンと来ていないようである。
まあ、オレもよくわかっていないが。
っていうか、今からメインストーリーを組み込むのは無理がないだろうか。
そんなこと可能なのだろうか。
「メインストーリーがないなら作るまでよ!」
「いや・・・でもな。」
「もう、サービスも公開済みだし。今からメインストーリーを埋め込みましょうと言われても・・・。プレイヤーも混乱するのではないかしら?」
美琴姉さんったら至極まともな意見を言う。
確かに今からメインストーリーを組み込むなんてどうなんだろうか。
「別に全員が全員メインストーリーを攻略しなくてもいいじゃない。気づいた人だけが進めればいいんだから。」
「うーん。」
「・・・でもねぇ。」
社長さんも美琴姉さんも渋い顔をしている。
今からメインストーリーを組み込むとなると、トップランカーがどこまで進んでいるかも重要になってくるだろう。
あまりに簡単なメインストーリーだったらトップランカーたちが後付けだって気が付いてしまうだろうし。かと言って難しすぎれば初心者がメインストーリーに入ってこれないだろうし。
なかなかバランスを保つのは難しそうだ。
「むーーーーっっ!!ほんと、みんなかったいんだからっ!っていうか、もうメインストーリー組み込んじゃったし。」
「はあ?」
「ええっ!?」
「えっ!?」
自分の意見が社長や美琴さんに認められないことに、気が立っているのか、寧々子さんは甲高い声を上げた。
そうして、衝撃的な言葉を発した。
寧々子さん曰く、もうすでにメインストーリーをゲームに組み込んでしまっていると。
どうやら社長も美琴姉さんもそのことに関しては初耳だったらしく、驚いた様子で寧々子さんを見つめている。
そうして、二人の口はポカンッと開いていた。
「ふふんっ。職業無職を選んだ人だけがメインストーリーを進められるのよ。職業無職はまだ一人だけしか選んでいないからね。」
「・・・げッ。」
「無職ってそのためにあったのか!!無職を実装した覚えがないのに、無職のやつがいたからビックリしてたんだぞ!」
「無職なんてあったかしらって思ってたら寧々子が原因だったのね!バグかと思ってたのよ!!」
どうやら、メインストーリーを攻略するには職業が無職じゃないといけないらしい。
ってか、オレ思いっきり職業無職だし。
っていうか、無職選んだのオレだけなんだ・・・。
そうだよな。
あれは、なかなか無職を選べるような作りにはなってなかったもんなぁ。
「ふふん。無職とパーティーを組んでなきゃメインストーリーは攻略できない仕様なんですぅ~。」
寧々子さんが得意気に胸を張って言ったけれども、そんなゲーム聞いたことないんだが。
特定の職業の人がいないとメインストーリーを進めることができないだなんて・・・。
「もう組み込んじゃってるんだからしょうがないよね。いいでしょ?いいでしょ?」
「・・・無職が一人確かにいたもんなぁ。」
寧々子さんは強引ぐマイウェイな人だったということに気づいた日だった。
って、いうかオレ無職だし。
「あのー。無職じゃないとメインストーリー進められないっていうんじゃ、オレ盛大なネタバレ聞いちゃった気がするんですけど・・・。」
「かったいこと言わないの。今はまだ無職へ転職はできないからね。優斗クンだって無職だなんてもの選んだりしてないでしょ?他にいろいろ魅力的な職業があるのに、わざわざ無職なんて選んでないでしょ?だから、万事オッケーってことで。」
ニコッと寧々子さんが笑った。
うん。その、無職を選択しちゃったんだけどね、オレ。
「いや・・・オレ、無職なんですけど・・・。」
黙っていられなくてそう言った瞬間、社長さんと寧々子さんの動きがピタッと止まった。
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