第50話

 


美琴姉さんは会社用の装いをしていた。


長い髪は後ろで一つにまとめており、赤いフレームの眼鏡をかけていた。


眼鏡姿の美琴姉さんも、髪をまとめている美琴姉さんも初めて見たような気がする。


服装もOLという感じでカチッと決めていた。


まるで知らないカッコイイ女性を見ているようだった。


「もー。怒んなくてもいいじゃない。美琴っちのだぁ~い好きな優斗クン連れてきてあげたっていうのにぃ。」


寧々子さんは美琴姉さんに怒られたことで、涙目になっている。


「寧々子・・・ここは会社なのよ。部外者は入れてはいけないの。そのためのセキュリティなのよ。」


「優斗クンは部外者じゃありませーん。美琴っちの最愛の弟でしょ?」


「はあ・・・。優斗は確かに私の可愛い弟だけどね、だからと言って会社に上司の許可なくいれるわけにはいかないのよ。会社内には部外者に知られてはいけない情報が沢山あるでしょ。寧々子もコンプライアンス研修受けてたわよね?」


「もう!美琴っちは相変わらず頭が固いんだから。」


美琴姉さんの言い分の方が寧々子さんの言い分よりも正しいような気がする。


というか、社会人としては美琴姉さんの方が心構えが上だろう。


しっかし、よくこんなぶっ飛んでる寧々子さんを会社で採用したよなぁ。


ぶっ飛んでるけど仕事は出来るってことなのかな?


「あのー。オレ、ここにいちゃまずそうなので帰りますね。」


美琴姉さんと寧々子さんに声をかけて、エレベーターに乗ろうとする。


ただ、その前にガシッと寧々子さんに手を掴まれてしまった。


「逃がさないわよぉ~。」


「へ?」


「寧々子!また社長に怒られるわよ!」


「大丈夫大丈夫。社長も頭は固いけど、キャッティーニャオンラインが発展していくためならなんでも許してくれるし!」


寧々子さんがそう力説している。


どうやらこの会社の社長さんは柔軟な思考をしているらしい。


まあ、どこまで許せるかってのはあるだろうけれども。


でも、流石に許可なく部外者を入れるのはまずいのではないかと思うのだけれど・・・。


「オレがどうしたって?」


「あ、社長!優斗クンここにいてもいいですよね!ね!」


「寧々子・・・。」


急に割り込んでくるガタイの良い男性がいた。


年齢から言うと30代後半と言ったところだろうか。


少しだけ日に焼けた浅黒い肌が特徴的な男性だった。


寧々子さんの反応からするとどうやらこの人が社長のようだ。


社長を見つけた寧々子さんは、オレを指さしながら社長に訴えている。


しかし、内容をはしょりすぎているために社長には伝わっていないだろうと思うことは、社長の顔を見ればわかる。


オレと寧々子さんの顔の間で視線をいったりきたりしているのだ。


美琴姉さんも寧々子さんの説明の仕方に頭を抱えてしまった。


「・・・誰?」


社長さんは怪訝な表情を浮かべてオレを見てきた。


「優斗クンです!」


寧々子さんは胸を張って社長にオレを紹介したが、その照会内容はただオレの名前を紹介しただけだ。


オレがなんでここにいるのか等を説明していない。


「・・・寧々子さん。君は説明不足だって言われないか?」


「よく言われます。社長にも何回か言われましたねー。」


うん?


寧々子さんって社長にも説明不足だって言われるのか。


って、本人前にしてそれ言っちゃっていいの?


っていうか、説明不足を治そうとしなくていいのだろうか。


いろいろと説明不足による誤解とか受けそうだけど・・・。


「じゃあ、説明してくれるね。優斗君がなぜここにいるのかを。」


社長さんはそう言って寧々子さんに微笑んだ。


その笑顔はなんだかとてもいい笑顔をしている。


「必要だからですよ。そんなのわかりきってるじゃないですか。やだなー、社長ったら。」


ズルッ。


寧々子さんの説明に思わずオレはズッコケてしまった。


寧々子さん、社長さんはオレがここに必要な理由を聞いていると思うんだけど。


社長も同じことを思ったのか、口元をヒクヒクとさせている。


寧々子さん。わざとなのか?


わざとだよね?


わざとだと思いたい。


「寧々子・・・社長は理由を尋ねているんだけれど・・・。」


美琴姉さんがため息交じりに寧々子さんに告げる。


「え?だから、今、説明したじゃん。」


「だから、寧々子の説明は説明になってないの。なんで優斗が必要なのかしら?」


「ん?キャッティーニャオンラインの発展のために必要だから。」


「どうして優斗なの?」


「え?優斗クンがイメージにピッタリなのよ。」


「なんのイメージにピッタリなの?」


「ふふふ。く・ろ・ま・く。黒幕よ!!」


「「「はいっ!?」」」


美琴姉さんが寧々子さんに質問を重ねることで、少しずつ寧々子さんから情報を引き出すことができた。


しかし、黒幕のイメージにピッタリって言われたって嬉しくないし。


っていうか、キャッティーニャオンラインに黒幕って必要だったっけか?


あのゲームほのぼのできるし、まあ、確かにクエストとかダンジョンとかあるけえど、いったいどこに黒幕要素が?


ってくらいストーリーというストーリーがないのだ。


ただ、自由にプレイできるってだけで。


まあ、クエストをこなしていくとサブストーリーっぽいものはでてくるけど、メインストーリーがあるだなんて聞いてないぞ。


というか、オレの認識正しいよな?


黒幕発言に社長さんも美琴姉さんも驚いているようだし。


 


 


 


 


 




 


 


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