第二章

第49話

 


美琴姉さんから衝撃的な事実を突きつけられてから数日。


オレの中でもある程度の整理ができてきた。


美琴姉さんと血が繋がっていなかったのはかなり衝撃的だったけれども。


ただ、まだオレを育ててくれた父さんと母さんに直接確認する勇気はでないけれども。


っていうか父さんも母さんもオレが美琴姉さんと付き合うことに肯定的ってどうなんだ?


実の姉弟ではないため血縁関係にないから問題ないとしても、戸籍はどうなっているのだろうか。


戸籍上でも姉弟になっていれば色々と問題がありそうな気がするんだけれども。


「んあーーーー!!!いいところに優斗クン。」


「えっ?」


とてとてと学校からの帰り道を家に向かって歩いていると、誰かに声をかけられた。


オレが立ち止まって振り返ると、そこには寧々子さんがいた。


以前会ったとおり寧々子さんの髪は寝癖がすごかった。


この姿で出歩いているのね、この人。


「寧々子さん、ですよね?どうかしたんですか?」


美琴姉さんの同僚の寧々子さんはツカツカとオレに近づいてくると、オレの両肩を両手でガシッと掴んだ。


「優斗クン!優斗クン!!優斗クンだ!!」


そして、肩を掴まれたままガタガタを肩を揺すぶられる。


思いっきり揺すられるものだから、首が上下に揺すられて正直目が回ってくる。


なんで寧々子さんってば女性なのに、こんなに力が強いのだろうか。


「ちょ・・・ね、寧々子さん。くび・・・くびが・・・。」


「あ!ごめんごめん!!」


寧々子さんはオレが目をまわしそうなことに気づいて揺するのを止めてくれた。


でも、両肩はガシッと掴まれたままなのはかわらない。


 「んふーーーーっ。優斗クン。今から私についてくるですよ。」


「え?いや、オレ帰らないと・・・。」


「何か用があるのかな?」


寧々子さんに着いていったらなんだか嫌な予感がする。


なにがとは言えないけれども直感が訴えている。


このまま寧々子さんについていってはいけないと。


「えっと・・・。家で課題をやらなければならないので。」


「ふむふむ。だいじょーぶだよ、優斗クン。こう見えても寧々子さんはとっても頭がいいのよ。だから、優斗クンの課題も見てあげれる。うん。問題ないね。さあ、私と一緒に来てください。」


「か、課題は自分の力でやってこそなので!!」


オレの右腕を両手でガシッと抱き締めている寧々子さん。


まるで、オレを逃がす気はないと言っているように見える。


やばい。


これは、やばい。


頭の中でガンガンと警告音が鳴りひびく。


「優斗クンは美琴っちと同じく頭が硬いわねぇー。学生の勉強がなんだっていうの。社会人になってしまえば学校で習ったことなんてなんの価値もないことだって気づくの。だから、課題なんてテキトーでいいのよ。テキトーでも社会に出ちゃえばなんとでもなる。うん。だいじょーぶ。だから、優斗クンは私と一緒に来るの。はい、これ決定事項だから。じゃあ、行こうね。」


「ええええええっ!!?なに、その超理論!?そんなの聞いたことありませんよ。」


寧々子さん社会人だよね。


美琴姉さんと同い年だよね。


それなのに、こんなことを言ってしまってもいいのだろうか。


学校での勉強がすべてではないとは流石にオレも気がついているが、それでも学校で貯えた知識が無駄になるとは思えない。


知識は自分の力になる。


それを応用できれば、強い武器にも鎧にもなる。


「むふーーーっ。もぅ。だから、みんな頭がカチコチなのよー。つまらないったらありゃしないわ。」


そう言って寧々子さんは右手でガシガシと自分の髪を掻いた。


「いい?いかにお金を稼ぐかはすべて、ここに詰まってんのよ。でもね、それは知識でもなんでもない。知識よりも閃きが大事なのよ。その閃きは硬い思考じゃ産まれないわ。柔軟な思考、常識外れな思考こそが必要なのよ!だから、優斗クン。柔軟になりなさい。いいわね。」


「え、あの・・・。」


「はい。じゃあ、そういう訳で課題のことはいいわね。さあ、行きましょう!」


なんだかよく分からない寧々子さんの理論に丸め込まれた・・・むしろ、ガシガシと丸め込まされたオレは、寧々子さんの誘いを断る術を持っていなかった。


そのまま、オレは寧々子さんに連れていかれることとなる。





☆☆☆





その後、寧々子さんの車に無理矢理乗せられたオレは、寧々子さんの運転する車の中で絶叫をあげた。


あり得ない。


あり得ないのだ。


寧々子さんスピード出しすぎっ!!


しかも大通りではなく裏通りなのか、交通量が少ない狭い道をスピードを緩めず突き進む。


これ、車や人が横からでてきたら事故にならないだろうか。


「ね、寧々子さん。スピード・・・スピード落としてください。安全運転でお願いしますっ!」


「にゃははははははははっ!!!」


オレは寧々子さんに懇願するが、寧々子さんはなんだかとてもハイになっているようで、変な笑い声をあげながら、更に速度を加速させた。


「ひぃぃぃぃぃぃーーーーーっ!!!」


「にゃははははははははははっ!!!」


く、狂ってる。


寧々子さんマジ狂ってる。


というか、寧々子さんに車を運転させたら危険すぎる。


どうして、寧々子さんは運転免許取れたんだろう。


「ね、寧々子さん!一旦停止!一旦停止の標識!!」


「にゃははははははははっ!!!一旦停止がなんのその!こんなに見通しが良いのに一旦停止するわけないじゃないの。」


「ひぅ・・・。そんなんでどうして寧々子さん免許とれたんですかっ!?」


「試験に受かったからに決まってんじゃないの。」


どうして。試験には筆記と実技しかないんだ。車は凶器なんだよ。


操作ミスすれば簡単に人の命を奪える凶器なんだ。


それなのにどうして、運転時の性格も考慮にいれないんだよ。おかしいだろう。


「キップ切られますよ!キップ!!」


「ふふんっ。安心しなさい。優斗クン。切られるキップなんてものはもう既に私にはないから!」


「はあっ!?そ、それって・・・。」


「んふっ。その通り免停中だよ。」


「威張れませんっ!威張れませんよ、それ!!っていうか免停中に運転なんてしたらダメじゃないですかーーーーっ!!!」


「むぅ。だから、優斗クンは頭が硬いって言われるのよ。大丈夫。私、事故は起こしてないから。」


「起こしてからじゃ遅いですって!!」


本当に、一番免許を持っちゃいけない人が運転免許を持っているような気がする。


って、免停中だし。


っていうか、免停中なのに運転できてしまうのも問題おおありだ。


「んふーーーっ。着いたよ。」


キキキーーーーーーーッと甲高いブレーキ音が辺りに響き渡りやっと寧々子さんの運転する車が止まった。


寧々子さんの運転が怖すぎて周りをよく見ていなかったから、ここがどこなのかわからない。


また、スピードも大分早かったような気がするので距離感もよくわからない。


オレ・・・寧々子さんの運転する車に乗ってよく無事だったな。


思わずそう思ってしまった。


車から降りて辺りを見回すといくつものビルが見えた。


ここはオフィス街だろうか?


行き交う人々はスーツを着用している人がほとんどだ。


「あの・・・ここは?」


オレは恐る恐る寧々子さんにここがどこなのかを確認する。


「ああ、私たちのオフィスよ。優斗クンにはちょーーーーっと手伝ってもらいたいことがあってね。ついてきてちょうだい。」


そう言って、寧々子さんはオレの右手首をつかむとツカツカとビルのひとつに入っていく。


中には駅の改札口にあるようなゲートが複数あった。


寧々子さんはそこに持っていたカードを翳す。


すると、ゲートが開いて中に入れるようなし組だ。


って!ちょっと待て。


これってセキュリティがしっかりしているビルってことだよね?


オレ、そんなところに入っていいわけ・・・?


「あの・・・寧々子さん。」


「大丈夫大丈夫。優斗クンのこと信じてるから問題なし!」


そう言って寧々子さんは強引にオレをビルの中に連れ込んだ。


これ、見つかったら問題大有りだと思うんだけど。


寧々子さん・・・常識はどこにおいてきたの・・・?


「寧々子!どこに行ってたのよ。って、誰?えっ!?優斗!?」


ゲートを潜った先にはエレベータがあった。


そのエレベータで最上階の10階に到着したところに美琴姉さんがいた。


そうして、オレの顔を見て驚いた顔をしている。


うん。美琴姉さんは普通の反応だ。


「そう!優斗クン連れてきちゃった。」


てへへと笑いながら寧々子さんが告げる。


連れてきちゃったって、かわいくいってもいろいろと問題ばかりな気がするのだが・・・。


そろっと美琴姉さんを見ると、美琴姉さんの頭に角が二本見えたような気がした。



 


 


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