第52話

「・・・無職?・・・優斗クンってば無職・・・?いやだなぁ~。ゲームの中での話だよぉ。っていうか、優斗クンは無職じゃなくて高校生だよ。無職には学生は含まれないんだよ。」


「・・・ははは。高校生だったのか。そうだな、高校生なら就職はしてないからな、まあ言いようによっては無職になるかもしれんが、学生は学業こそが仕事だからな。優斗くんは無職ではないだろう。そう卑下するな。」


寧々子さんと社長さんはしばらくカチンッと固まったあと、オレが学生だから無職だと言っているという風に結論をだしたようだ。


「いえ・・・キャッティーニャオンラインで無職を選んでしまったのはオレです。」


「ええええええええええええっっっ!!!!」


「な、なんだとぉおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」


素直にキャッティーニャオンラインで無職を選んだのは自分だと告げると、寧々子さんと社長さんは叫びだした。


二人とも驚いているようだ。


「ちょ、ちょっと!!じゃ、じゃあさぁ、優斗クンがエンディミオン様なの?ミーシャと付き合ってるのは優斗クンなの?」


「・・・はい。」


寧々子さんが恐る恐ると言った感じで確認をしてくる。


オレはそれに小さく頷いた。


「ふぇぇえええええええええええっっっ!!!?」


「な、なんだとぉおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」


すると、再び寧々子さんと社長さんの叫び声があがる。


「ちょっとぉ!!!なんで美琴っちはそんなに冷静なのぉ!!美琴っちってばゲームの中とは言え、弟クンと付き合ってたんだよぉ!!!ちょっとは驚きなさいってばぁ!!」


「そ、そうだぞぉ!美琴君。こ、これはゆゆしき事態なのであーる!!」


「大変っ!?大変だわーーーっ!早急に、恋人解消イベントを作成しなくっちゃ。」


「そ、そうだな!寧々子さん、はやく取りかかってくれ。」


「らじゃーーーーっ!!!」


社長さんと寧々子さんはわたわたとせわしなく視線をさ迷わせたかとおもったら、いきなり叫びだした。


しかも、キャッティーニャオンラインのシステムを改修するという方向に舵を切っている。


しかし、恋人解消イベントってなんだ・・・?


聞いたことないんだけれども。


「ちょっ!社長!寧々子!!血迷わないで!!」


美琴姉さんが二人を止めようと待ったをかける。


しかし、二人は止まらない。


「血迷ってなんかいないわ!これが正常な思考なのよ。」


「そうだぞ、そうだぞ。ああ、イベントは24時間限定、経験値は2倍ってことでどうだ。」


「そうね。期間を短くした方がみんなイベントに参加するわね。それに期間限定経験値2倍!!これは行けるわ!」


「今ならプラチナチケットも半額だ!」


「普段経験値が2倍になるプラチナチケットが半額!しかも、期間限定経験値2倍と重なれば、プラチナチケットを使用すれば経験値4倍!!う~ん。これはもう絶対イベントに参加するっきゃないわね!」


社長さんと寧々子さんが捲し立てるように意見を発表していく。


っていうかさ、何か違ってない?


美琴姉さんとオレがキャッティーニャオンラインで恋人だというのがいけないから、オレたちを別れさせたいわけだよね?


っていうか恋人解消イベントって誰が参加するんだよ。


ただでさえ恋人になれる確率が低いのに、そこで解消イベントって・・・。


いくら経験値が積み上がるからって参加するような人はいるのだろうか。


というか、オレと美琴姉さんをキャッティーニャオンラインで別れさせるために、どうしてそこまでするんだろうか。


ただちょっとデータいじくってしまえばいいんじゃないのか?


それだとまずいのか?


でも、なんでこんなお祭り騒ぎのようなことをやりだそうとするのだろうか。


全くもって意味不明である。


「社長!!寧々子すとーーーーーーっぷ!!」


オレが混乱していると、美琴姉さんが社長と寧々子さんの手をつかんでいた。


「ダメよ!そのイベントは絶対にダメ!」


おお。美琴姉さんもダメだと言っている。


やっぱり、恋人解消イベントなんて聞いたことないしな。


実装しても、イベントに参加する人少なそうだし。


むしろ、変なイベントをやっているとして、キャッティーニャオンラインがどこに向かっていくのかわからなくなったってことで、ゲームから離れて行ってしまう人が多そうだしな。


美琴姉さんってばちゃんと考えて仕事しているんだな。


社長さんや寧々子さんを止める勇気があるのってすごいな。うん。


オレは美琴姉さんの仕事にかける情熱の一部を垣間見たような気がした。


でも、それも美琴姉さんが次の言葉を発するまでの間だった。


「そんなイベント却下よ!私とエンディミオン様が別れるだなんてそんなことは許されないわ!!」


「えっ!?そ、そこ!?」


美琴姉さんがイベントに反対したのはオレと別れたくなかったかららしい。


力強く反対していた。


てっきりイベント事態がダメダメな企画かと思ってたんだけど・・・。


「あのぉ~。美琴姉さん、でもイベントは強制参加じゃないと思うので、イベントが実装されても問題はないと思う。でも、寧々子さん。そのイベント実装コストを考えると微妙だと思いますよ。だって、恋人限定のイベントなんですよね?」


オレは恐る恐る三人の間に割り込んでみた。


オレの言葉に三人はハッとしたように顔をあげた。


「そ、そうね。そういえば、キャッティーニャオンラインのイベントは自由参加だったんだわ。」


「ぐっ!恋人持ちは強制参加にしてあげるわ。」


「寧々子さん。優斗くんの指摘は正しい・・・。これは参加するプレイヤー皆無だと思う。我にかえってみれば、せっかく恋人になったのに別れたいと思うプレイヤーなんてそんなにいないはずだ。ただでさえ恋人になるにはレアアイテムがないと膨大な時間がかかるし・・・。」


美琴姉さんと社長さんはどうやら考え直してくれたようだ。


だが、寧々子さんは違った。


強制参加とかいいだした。


強制参加はいただけない。


強制参加なんぞをさせた日にはプレイヤーが確実にいなくなること必死だろう。


いくら経験値が2倍になったとしても、恋人と別れたいと思うプレイヤーはそれほど多くないと思う。


というか、恋人になるのが至難の技なのだから、いったいキャッティーニャオンライン上で何人のプレイヤーが恋人を保持しているのだか。


もしかすると、両手で数えられるくらいかもしれないんじゃないか。


「じゃあ、レアアイテム大放出しちゃえばいいのよ!そうすれば、イベントで別れたとしてもすぐまた恋人になれるわ!!」


寧々子さんってばまた本末転倒なことを・・・。


「寧々子さん。それってオレや美琴姉さんにも手にいれられるんですよね?そしたら別れてもまた恋人になることができるんですよね?」


「はっ!?な、なら。一度別れたら復縁はできませんっ!別の人となら恋人になれるっていうのは!!」


「えっと・・・。それは現在の恋人に満足している人から不満の声が上がるかと思います。ほぼ強制的に別れさせておいて、復縁はできないという鬼仕様はさすがにいただけないかと・・・。」


「えええっ!!じゃあ、どうしたらいいって言うのよ!!」


「いえ、だから別に今のままで・・・。」


社長さんは納得してくれているようだが、寧々子さんは全く納得してくれないようだ。


う~ん。まいったなぁ。


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