第31話


ニャーネルさんが言った【猫のぬいぐるみ】と【虹色の奇跡】を取得する確率からいくと、この二つを一週間のうちに両方とも手に入れるのは天文学的数値になるのではないかと思う。


ニャーネルさんはエリアルちゃんに追求されて、だらだらと額から汗を流している。


ガーランドさんは、そんなニャーネルさんを鋭い目で見ていた。


「この二つを両方とも手に入れる確率はかなり低いわよね?むしろほぼあり得ないわよね?」


「そ、そうかにゃ・・・?」


エリアルちゃんに睨まれてニャーネルさんはタジタジとしている。


「あり得ないな。通常だと無理だろう。数ヵ月かければいけるかもしれないが、一週間では無理だろう。」


ガーランドさんが追い討ちをかける。


ニャーネルさんはもうやめてほしいとばかりに壁に張り付いてしまっている。


「そうなの。それがね、ここにいるエンディミオン様はその両方を得ているのよ。」


「はあっ!?」


エリアルちゃんの言葉にガーランドさんが目をひんむいた。


ただ、ニャーネルさんは知っていたのかなんなのか、驚くことなどなくただ冷や汗をながし続けている。


「誰かが意図的に彼に二つのアイテムを渡したと考えるべきですわよね?ニャーネル?」


「えっ・・・。いや。ほら、偶然だよ。偶然。」


ニャーネルさんは偶然だと言うがその顔色はひどく悪い。


「すごい偶然、よね?そう思わない?ガーランド?」


「ああ。そうだな。偶然にしては出来すぎているな。」


エリアルちゃんとガーランドさんの目が怖い。


鋭い視線がニャーネルさんに突き刺さった。


「わ、わ、わ………。」


ニャーネルさんは二人の視線に耐えきれずに、わたわたと慌て出した。


そして、


「わ、私は知らないのですぅ~~~!!!」


と叫んで、部屋から飛び出して行ってしまった。


「行っちゃったわね。」


「あれは、ログアウトもしてるだろうな。はあ、詳しく話を聞いてみるか。」


エリアルちゃんとガーランドさんが同時に大きく息を吐いた。


「しかし、何でいきなり虹色の輝石と猫のぬいぐるみの話になったんですか?」


ガーランドさんがいつもより丁寧な口調でエリアルちゃんに尋ねている。


「もらったのよ。猫のぬいぐるみ。しかも虹色の輝石を使って彼女が既にいる人から。」


エリアルちゃんがまるでなんてことのないように言うが、その内容を聞いてガーランドさんは目を見開いた。


そして、途端に挙動不審になる。


「なっ、なっ、なっ、なんだとーーーーっ!!!エリアル様がっ!!我らのエリアル様が一人のものになるだなんてっ!!」


んにゃ。


ガーランドさんは、二つのアイテムが手に入った人がいるということではなくて、エリアルちゃんに恋人が出来たことについてショックを受けたようだ。


ダバダバとあふれでる涙が床に吸い込まれていき、木製の床が、涙で濡れていく。


っていうか、これオレがエリアルちゃんの恋人だってバレたらやばくね?


今のうちに逃げた方がいいだろうか。


「ふふっ。エンディミオン様が私のダーリンなのよ。」


って、エリアルちゃん堂々とオレの名前を出しちゃうし!!


ガーランドさん、こっちをむっちゃ睨んでくるし!!


「そうか。おまえか、おまえが………。」


ゆらぁ~りと立ち上がりこちらに向かってくるガーランドさん。


こ、これは追求を逃れるためにオレもさっさとログアウトすべきだろうか。


いや、でも、まだミーシャさんたちと一緒にいたいし。


「ガーランド。そんなことより、虹色の輝石と猫のぬいぐるみ両方をエンディミオン様が手に入れたのよ。運営側の手が入ってると思わない?」


ガーランドさんがオレの元に来るよりもはやく、ミーシャさんがオレをガーランドさんから引き離すかのように声をあげた。


ミーシャさんの言葉にガーランドさんの動きがピタリと止まる。


「ああ。あの態度からすると十中八九ニャーネルの仕業だろう。あいつはいったい何がしたいんだ。」


ガーランドさんはそう言って頭を抱えた。


「運営が特定のユーザーに関与すべきではないのに、なぁ。ましてや、アイテムの優遇とは見過ごすことは出来ないな。」


「そうよね。」


ガーランドさんの言葉にミーシャさんが頷く。


あれ?もしかしてオレのアイテムが回収される?


ということは、ミーシャさんとエリアルちゃんとの恋人関係も解消されてしまうのだろうか。


エリアルちゃんは恋人というよりちょっと小生意気な妹って感じだから別にいいんだけれども、ミーシャさんは異性として気になっているのだ。


ミーシャさんと恋人関係が解消されるのは、ちょっと………いや、かなり嫌だ。


オレはドキドキしながら、ガーランドさんの次の言葉を待つ。


「エリアル様はエンディミオン様と恋人関係を解消したいのでしょうか?」


あれ?オレではなく、エリアルちゃんの方に話しかけてる。


「私はエンディミオン様をとても気に入っているからこのままでいいわ。でも!これ以上エンディミオン様に恋人が出来るのは許せないの。ちゃんとにニャーネルの手綱を握っていてくれるかしら?(これ以上エンディミオン様の彼女が増えるだなんて、許せないわ。きっと次はマコッチが彼女になりそうな雰囲気だし。それは阻止させてもらうわ。)」


「も、もちろんであります!(ど、どうして恋人関係は解消しないんだよぉ~!!エリアル様のこと狙ってたのにぃ。)」


エリアルちゃんはそう言って、ガーランドさんに特大の釘を刺していた。


ん?あれ?


でも、この会話ってさ。


ガーランドさんも運営側じゃないと、話が合わないよね?


いくらギルマスだって言ったって運営側のシステム改修を止めることなんて出来ないだろう。


と、言うことはガーランドさんも運営側ってことか。


「では、話が纏まったことだし私は帰るわ。ダーリン行くわよ。」


エリアルちゃんは、オレに恋人がこれ以上増えないようにニャーネルさんとガーランドさんに釘を刺しに来ただけらしかった。


用が済んだので帰ろうとオレの手を取って促してくる。


「えっ………。あ、あれ?」


エリアルちゃんがぎゅっと握っている手とは逆の腕に温かく柔らかい感触が………。


ふと、そちらを見るとオレの腕をミーシャさんがぎゅっと抱き締めていた。


っていうか!胸!ミーシャさんの大きめな胸がオレの手に当たっている。


どうやら、温かくて柔らかい感触はミーシャさんの腕だったようだ。


「エンディミオン様は私の彼氏でもあるのよ。いくらエリアルちゃんでも渡せないわ。(でもエリアルちゃんよくやったわ。マコッチがエンディミオン様の恋人になんてなってしまったら、きっとエンディミオン様は私のこと見向きもしなくなるだろうし。)」


「えっ?えっ?」


「やあ~!?二人ともずるい!!あたしも!あたしも!!」


ミーシャさんとエリアルちゃんに両腕を取られたオレは後ろでピョンピョン跳ねながら抗議をしてくるマコッチの声を聞いた。


何で、オレこんな修羅場にいるんだろうか………。


ガーランドさんの視線も痛すぎだし。


はやくここから逃げ出したいんだが………。

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