第22話
「もうっ!(エリアル様まで悠斗に目を付けたのぉ。もう、私の勝ち目ないじゃん・・・。)」
マコトの目が次第に潤み始める。
どうしてだろうか。
エリアルちゃんと友達になったことがそんなにいけないことだったのだろうか。
「あー、ごめんな?」
「・・・何に対して謝ってるのよ?」
ゴシッと右手で目を擦るマコト。
それを見て、オレの心がチクッと痛んだ。
マコトを泣かせたい訳じゃないのに・・・。
適当に謝罪の言葉を言ってしまったオレに自己嫌悪を覚えた。
「・・・ごめん。」
「・・・もぅ。悠斗って昔っからすぐに謝るよね!」
「うっ・・・。そうかも、ごめん。」
「ほら、また謝った。」
「あっ・・・。ごめん。」
「ほら、また!って、謝ってほしいわけじゃないの。別に悠斗が悪いわけじゃないし。(悠斗が私を異性として見るようになって欲しいだけ。)」
オレの家は父さんは寡黙だ。
家のことにはほとんど口出しはしない。
その分、家の実権は母さんと美琴姉さんが握っているようなものだ。
そのため、どうにもオレは女性に弱い。
女性が怒っていると反射的に謝ってしまうのだ。
「オレが悪いわけじゃないって言っても、マコト怒ってんじゃん。しかも、泣いてるし・・・。なんかあったんだろ?」
「・・・これは、私の心の問題だからいいのっ!(私にもっと勇気があったら・・・。悠斗に告白できるだけの勇気があったら・・・。そんな勇気も無いのにヤキモチ焼いたって悠斗の負担になるだけだよね。)」
「でも・・・オレ、マコトが泣いてると放っておけないんだ。マコトにはいつでも笑っていて欲しいし。マコトに困っているんだったら助けたいし、辛い思いをしているのならばうち開けて欲しいと思ってる。」
これは、本心からの思い。
友達が困っている姿とか見たくないし。
友達が笑ってくれるのならば、オレはいくらだって協力したいと思う。
「もう・・・。悠斗優しすぎっ!(だから、みんな悠斗に惹かれるのかな?見た目は地味だけど、優しいんだもん。)」
ポカポカとオレの腕を叩くマコト。
それで、マコトの気が晴れるのならと、オレは黙って見つめていた。
☆☆☆
なんとかマコトの機嫌も直ったようで、学校に着くころにはマコトはもう気持ちの整理がついたのか笑っていた。
まさか、オレがマコトに笑っていて欲しいって言ったから無理して笑っているわけじゃないよな・・・?
オレの心の中は今朝まではミーシャさんのことでいっぱいだったのに、今はマコトのことでいっぱいだ。
だから、オレは気が付かなかった。
前から女生徒が本を読みながらやってきていることに。
「きゃっ・・・。」
「うわっ・・・。」
女生徒は歩きながら本を読んでおり、オレは歩きながらマコトのことを考え込んでいた。
だから、オレたちはお互いに相手の存在に気づくことができなくてぶつかってしまった。
反動で女生徒が尻餅をついてしまった。
「ご、ごめん。考え事をしていて。怪我はない?大丈夫?」
オレは床に座り込んでしまった女生徒に手を差し伸べる。
今時珍しい黒髪のおさげ姿の女性とは分厚い丸い眼鏡をかけていた。
「あ・・・。」
顔を上げた女生徒と視線がぶつかる。
この子、眼鏡かけてなかったらすっごく可愛いような気がする。
「・・・大丈夫ですわ。ご心配なく。」
女生徒はオレの手を払いのけて、自分で立ち上がった。
そうして、スカートの裾についたゴミを払うかのように、スカートをパンパンと払った。
それから不意にオレの方に近づいてくる。
・・・近っ!!
顔と顔が触れ合うのではないかという距離まで近づいて臭いを嗅ぐようにスンスンッと鼻を鳴らす。
「・・・あなたとても良い匂いがするわ。名前を教えてくださるかしら?」
「えっ・・・。」
驚いて声を上げてしまった。
まさか、良い匂いがすると言われるとは思ってもみなかった。
「えっと。オレは悠斗です。日向悠斗です。君は?」
「ふぅ~ん、悠斗って言うのね。私、高城アキ。泡姫って書いてアキよ。」
「あ、君が・・・。」
高城泡姫。
オレはその名前を知っていた。
だって、高校入学時に話題になったからだ。
成績優秀者で、入試で満点を取った才女だ。
それに、その容姿と名前も話題になった。
「ふぅん。悠斗も私のこと知っているのね。」
「あ、ああ。高城さんは有名だから。」
成績もさることながら、容姿も話題になった。
モデルかと思うほどのスタイルのよさと、顔の造作のバランス。
芸能人としても通るほどの美貌の持ち主なのだ。
今はおさげと分厚い眼鏡で隠されているが。
「ほんと、この名前と見た目のせいで私の人生散々だわ。」
高城さんの見た目は上の上だから、ナンパが多かった。
なぜ、本命ではなくナンパなのかというとその名前だ。
読み方自体は「アキ」なのでそれほど珍しくはないが、漢字が問題だった。
「泡姫」と書いて「アキ」だからだ。
泡姫とググってみるとわかるが、とある風俗嬢の総称だったりもする。
あまり名前に付けるのには相応しくないような気がした。
もちろん、現在青春まっさかりの高校生のオレたちはそっちの話題に敏感だ。
高城さんもそのことで揶揄われたことや、いじめを受けたこともあるのだろう。
「そんなことないよ。きっと高城さんのことちゃんと見ててくれる人いるよ。それに、高城さん容姿や名前に負けないように自分に出来ること頑張ってるんだろう?そんなこと誰にだってできることじゃないよ。もっと自分を褒めてあげて。」
「なっ・・・。」
高城さんはオレの言葉が気にくわなかったのか顔を真っ赤に染めた。
口がわなわなと声を発することもなく動いていた。
「さっきはぶつかって、ごめんね。オレ、次の授業に行くから。」
オレはそう言って、高城さんと別れた。
だからオレは知らなかった。
高城さんがオレの後ろ姿をジッと見つめていたことも、「日向悠斗・・・。」と、オレの名前を何度もつぶやいていたことも。
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