第23話
「美琴の引っ越しの日程が決まったの。今度の土曜日だって。引っ越し業者を頼むそうなんだけれども、悠斗も手伝いに行ってくれるかしら?」
「ん?別に予定もないし、いいよ。」
夕食を食べていると、母さんからそんな話が出た。
どうやら美琴姉さんの引っ越しが決まったようだ。
今度の土曜日って急だな。明後日じゃないか。
オレに予定が入ってたらどうするっていうんだよ。
って、マコトくらいしか遊ぶような友達がいないから予定なんて入っていないけど。
まあ強いていうならば、キャッティーニャオンラインをプレイするくらいだったし。
でも、もしかしたらミーシャさんと土曜日は一日一緒にいれたかもしれないけど。と、思うと少し残念な気もするが、ミーシャさんと約束をしているわけでもないし。
ミーシャさんも引っ越しをするって言ってたからもしかしたら土曜日は引っ越しの準備で忙しいかもしれないしね。
「そう、よかったわ。じゃあ、美琴にも悠斗が手伝いに行くって伝えておくわね。」
「りょーかい。」
そういうことで、オレは土曜日に美琴姉さんの引っ越しの手伝いに行くことになったのだった。
☆☆☆
さて、じゃあ今日もやりますかね。
オレは今日もキャッティーニャオンラインにログインする。
ミーシャさんに会うためっていうのもあるけれども、一番はミーシャさんに相応しいようにレベルを上げるためだ。
ピロンッ。
キャッティーニャオンラインにアクセスするとお知らせを告げる電子音が鳴った。
なんだ?と思ってお知らせを確認するとログインボーナスが出てきた。
このゲームのログインボーナスって何が当たるかわからないランダム形式になっている。
そのため、当たりもあれば外れも多々ある。
こないだなんか、猫のぬいぐるみが当たった。
何に使うのかというとただの飾り用だ。
キャッティーニャオンライン上で自分の家を買っていれば家に飾れるが、家を持つ余裕がまだないオレには不要なものだ。
特に飾ってもなんの効果もないし。
まあ、誰かにプレゼントすればいいのだろうけれどももらって喜ぶ人が思い当たらない。
ミーシャさんは家を持っていないようだし、マコッチがぬいぐるみを持っているイメージはないしな。
と、思いながらふと頭の中にツンとした表情のエリアルちゃんの姿が思い浮かんだ。
「あ、そうか。」
エリアルちゃんなら家を持っているし、見た目が幼女なのでぬいぐるみを持っていても違和感はない。
むしろ、エリアルちゃんがぬいぐるみを持っていたらとても可愛いだろう。
天使にも見えるかもしれない。
そうか、この猫のぬいぐるみはエリアルちゃんにあげよう。
そう決めた。
オレが持っていてもアイテム欄を一つ埋めるくらいだしね。
「今日は何が・・・って!!えっ!!」
今日のログインボーナスはなにかなと思って確認すると、なんとExpが2倍になるチケットだった。
しかも24時間有効になるタイプだ。
明後日は土曜日だ。
丸一日ゲームをしていても翌日には響かない。
存分にレベルアップをすることができる。
しかし、土曜日は美琴姉さんの引っ越しの日だ。
そうなると使えるのは日曜日か?
いや、日曜日はきっと美琴姉さんが引っ越してきたってことで忙しくなるだろう。
そうなると、使えるのは来週の土曜日か・・・。
せっかくあたったExp2倍チケットなのに、このタイミングで当たるとか嫌がらせかと思う。
「はあ。」
でも、Exp2倍チケットは無課金だとなかなか手に入れるチャンスがない。
それこそログインボーナスで極まれに出ると噂されているくらいだ。
だから引きはいいのだろうけど、なぜこのタイミングなのだろうかと自問自答したい。
でも、ま。外ればっかりのログインボーナスでこれは大当たりなのだから良しとするか。
オレはそう気持ちを入れ替えた。
ログインするとすぐにマコッチからメッセージが飛んできた。
「今からそっちに行くからそこで待ってて。」
というようなメッセージだった。
マコッチは王都にいるはずだからここに来るまでに少し時間がかかるだろう。
それまでここにいろと?
ま、いっか。
周辺のゴミを拾ってレベルアップをはかるとしますか。
そう思って辺りに視線を巡らせるがゴミは一個も落ちていなかった。
昨日ゴミを拾いつくしてしまったからだろうか。
いや、でも、だいたい毎日一つはゴミが落ちていたはずなのに・・・。
オレは疑問に思って首を傾げる。
「エンディミオン様、何をしているの?」
「あ、エリアルちゃん。」
地面に視線を向けながら首を傾げているとエリアルちゃんが話しかけてきた。
それもそのはず、ここはエリアルちゃんの家の前なんだから。
「いや、ゴミを拾おうと思ったんだけど、一つも落ちていないから不思議で。」
「ふぅん。そんなの私が拾ったに決まっているじゃない。」
「そっか。エリアルちゃんが・・・。って、え?」
「ゴミを拾えば貢献度が上がるということがわかったのに拾わないわけあるかしら?」
「いえ・・・。ありません。」
確かに、その街に住んでいるのであればゴミを拾うと貢献度が上がる。
エリアルちゃんはその貢献度を上げたがっていたのだからゴミを拾うという行為に関しては否定しない。
むしろ良いことだと思う。
だけれども、可愛い幼児の見た目をしているエリアルちゃんが一生懸命ゴミを拾っている姿がどうにも想像できない。
それに、そんなエリアルちゃんが一生懸命にゴミを拾っている姿を見てしまったらきっとオレは泣いてしまうかもしれない。
こんな可愛い子供にゴミを拾わせるなんて、ゴミを捨てたやつマジ許さん。
って、なるだろう。
それだけ、エリアルちゃんがゴミを拾う姿は衝撃的だと思う。オレ的には。
「ゴミを拾ったのはここだけ?」
「いいえ。まさか、この街に落ちていたほぼ全てのゴミを拾ったわ。」
エリアルちゃんは胸を張って告げた。
オレはその言葉を受けて崩れ落ちる。
この街のゴミを全て拾ったってことはエリアルちゃんがゴミを拾っている姿を見かけた人も多いだろう。
オレと同じ考えのやつがいるとすれば、きっと今日以降街に落ちているゴミが減るはずだ。
こんなに可愛いエリアルちゃんにゴミ拾いはさせられないと言ってゴミを拾う人が続出するだろう。
それに、ゴミを捨てる人も激減するような気がする。
つまり、オレは今後この街ではゴミ拾いによってExpを得ることができないということだ。
「・・・?何をそんなに落ち込んでいるのかしら?」
エリアルちゃんは地面にしゃがみこんでいるオレと視線を合わせるために、自らもしゃがみこみオレの顔を覗き込んできた。
パッチリとしたエリアルちゃんの瞳と視線が合わさる。
・・・あれ?なんだか最近、同じようなことがあったような。気のせいだろうか。
「い、いや。なんでもないんだ。ゴミが街から消えるというのはいいことだよね。エリアルちゃん、とってもいい子だね。」
オレは涙をこらえながら笑顔でそうエリアルちゃんに告げる。
すると、エリアルちゃんは頬を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。
「わ、私は貢献度をあげたいだけなんだからっ!」
そう叫んでいるが、顔を真っ赤にしているところを見ると褒められて嬉しかったようだ。
うん。
可愛いな。エリアルちゃんは。
「エンディミオン様、お待たせ。」
エリアルちゃんを見て微笑んでいると、後ろからマコッチに声をかけられた。
どうやらもう到着したようだ。
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