第20話

 


オレの告白を受けて、ミーシャさんは顔を耳まで真っ赤にして俯いてしまった。


オレも思わず告白してしまったことに今更ながらに恥ずかしさを感じて、ミーシャさんを直視できずにいる。


なんとも気まずい雰囲気があたりを包み込む。


「ちょっと・・・私の前でイチャイチャしないでくれる。(もう!私だってエンディミオン様とイチャイチャしたいのに。なんで、おばさんが・・・。)」


その気まずいような気恥しいような雰囲気をぶち壊してくれたのはエリアルちゃんだった。


エリアルちゃんはオレたちの雰囲気が居心地が悪かったのか、顔を顰めている。


まあ、他人の告白現場に遭遇して居心地がいいわけはないか。


エリアルちゃんはまだ幼いのに巻き込んでしまって申し訳ない気持ちになる。


って、エリアルちゃんの本当の年齢は知らないけれども。


「あっ・・・。ご、ごめんなさい。」


「ご、ごめん。」


オレたちはほぼ同時にエリアルちゃんに謝った。


「むぅ。シンクロしてるしっ!!もう、いい!!今日はもう寝るの!!」


エリアルちゃんは口を尖らせて店の奥に駆け込んでいってしまった。


「あ、エリアルちゃん・・・。」


思わず追いかけようと足を踏み出してから、その場にとどまる。


いくら幼女とは言え女性の寝室に踏み込んではいけないと判断したのだ。


「あ、えっと、あの。私ももう寝ますね。エンディミオン様も、予定していた23時を大幅に超えてしまっているので、早く寝た方がいいよ?」


「え?」


ミーシャさんに言われて、時間を確認するとすでに深夜1時を超えていた。


ギルドに行ったり、ガーランドさんに会ったりしているうちにどうやら大幅に予定の時間を過ぎてしまっていたようだ。


明日に響かなければいいけれど・・・。


「あ、遅くまで付き合わせてしまってごめんね。また、明日ね。」


「あ、ううん。こっちこそ。ミーシャさん明日のお仕事大丈夫ですか?」


「うん。大丈夫。徹夜なんて日常茶飯事だったから。」


「大変な仕事をしているんですね・・・。」


ミーシャさんが徹夜が日常茶飯事と言ったのでオレはビックリしてしまった。


今時でもまだ徹夜をしている仕事があるということにビックリしたのだ。


そして、その仕事をミーシャさんのような人がおこなっていることにも驚きだ。


「あ、でも。最近転職したの。転職先はね、友達が作った会社で・・・。だから、今は徹夜なんてしてないよ。」


「そうなんだ。よかった。」


うん。


よかった。


ミーシャさんのような線が細い女性が徹夜だなんて身体を壊しかねない。


むしろ、ミーシャさんじゃなくても女性じゃなくても徹夜で仕事をしていたら身体を壊しかねないだろう。


でも・・・。


なんか、ミーシャさんの話ってどっかで聞いたような話なんだよなぁ。


あれ?そう言えば美琴姉さんも友達の会社に転職したばっかって言ってなかったっけか?


あ、あれ?


いや。そんなばかな。


そんなはずはない。


そんなはずは・・・。


この広い日本でまさかミーシャさんが美琴姉さんのはずがない。


いくら、もうすぐ引っ越しするとか、転職したばっかだとか、年齢が一緒だとか、共通点はあったとしても、それがまさか美琴姉さんだっていうことなんてあり得ないだろう。


そうだよ。


単なる偶然の一致だ。


うん。


偶然の一致にすぎない。


「じゃ、じゃあ。ミーシャさん。おやすみなさい。また明日。」


「うん。お休みなさい。エンディミオン様。」


お互いにお休みの合図をしてログアウトをしようとした時に、ふいにミーシャさんの影がオレに重なった。


それと同時に唇に柔らかい感触が・・・。


「・・・おやすみ。」


耳まで真っ赤にしたミーシャさんが、小さく呟いてその姿を消した。


どうやらログアウトしたようだ。


と、いうか今のって・・・。


キス、だよな?


オレ、ミーシャさんとキス・・・しちゃった。


しかもエリアルちゃんのお店の中で。


うう・・・。もう、眠れるような気がしない・・・。


オレはそう思いながらも学校に備えてゲームからログアウトしたのだった。


 


 


 


 


 


☆☆☆


 


 


 


「やっぱ・・・一睡もできなかった。」


翌朝、オレはいつも通りの時間に起きた。


いや、起きたというより眠れないうちに朝になっていたというのが正しい。


ショボショボとする目を擦りながら制服に着替える。


「・・・うぅ。」


ミーシャさんからの告白も、その後のファーストキスも嬉しかった。


嬉しかったのだが、嬉しすぎて眠ることができないだなんて思いもしなかった。


ミーシャさんとの今後のあれこれを考えると、ドキドキとする胸が抑えきれない。


・・・ルルルルルル。


ドキドキしていると、無機質なスマホの着信を告げる呼び出し音が部屋に響き渡った。


誰だよ、こんな朝っぱらから・・・。


と思って見ると、マコトからの着信だった。


珍しい。


朝早くから電話をしてくるだなんて。


オレは慌てて電話に出た。


『おっはよー。悠斗!』


「ああ、おはよう。どうしたんだ?」


電話に出ると朝から電気のよいマコトの声が聞こえてきた。


なんだか、いつもよりテンションが高いような気がする。


『えへへ~。悠斗一緒に学校に行こう!』


「は?なんで?」


『なんででも!!もう悠斗の家の前にいるから!(エンディミオン様はミーシャさんに譲っても、悠斗は誰にも渡さないんだからね。)』


「え?オレ、まだ飯も食ってねえよ・・・。」


『悠斗の準備が出来るまで待ってる。(誰かに悠斗を取られるくらいなら、ここで待っている方がいいもん。)』


「あー、もう。しょうがねえなぁ。マコトは。」


オレはそう言って通話を切った。


そうして、頭をガシガシと掻きむしりながら二階にある自室を出て一階に降りていく。


「あら、悠斗。おはよう。なんだか、眠そうね?」


一階に降りてリビングに行くと、母さんが朝食を作りながら振り向いた。


「おはよう。マコトが家の前にいるって。」


「あら!早いわね。ご飯食べてきたのかしら。上がってもらってちょうだい。」


「ん。」


小さい頃から一緒であるマコトは当然オレの家に来たことも何度もある。


そのため、母さんもマコトのことはよく知っている。


父さんも、美琴姉さんもマコトのことは小さい頃からよく知っている。


オレの家で一緒にゲームをしたこともあるし、オレがマコトの家に乗り込んで一緒にゲームをしたこともある。


小さい頃からマコトと会うことはゲームをすること。という認識がオレの中にはある。


母さんの許可を得たオレは玄関のドアを開けると、視線を巡らせてマコトを探す。


マコトはすぐ見つかった。


家の前の植え込みのところでしゃがみ込んでいたのだ。


「マコト。母さんが入っていいって。」


「あ、いいの?じゃあ、おっじゃましまーす。」


マコトはそう言って元気に挨拶すると家の中に入ってきた。


「マコトちゃん。いらっしゃい。久しぶりね。」


「お久しぶりですー。わあ!いい匂い!!」


マコトはそう言ってニコニコと笑みをこぼす。


母さんもいつも元気なマコトを気に入っているのか、こんな朝早くに突然やってきても嫌な顔一つしない。


それどころか、


「悠斗!マコトちゃんを待たせちゃダメじゃない。早く支度をする!マコトちゃん、ご飯は食べてきたの?」


前半はオレに。後半はマコトに。


っていうかオレにはキツイくせに、マコトには優しいんだから。


オレは「はいはい。」と頷くと用意されていた朝食に齧り付いた。


マコトも隣でミルクティーを飲んでいる。


マコトがご飯を食べてきたというと、母さんがマコトが大好きな甘めのミルクティーを用意したのだ。


本当に母さんはマコトに甘い。


「そう言えばね、マコトちゃん。美琴がね、もうすぐ引っ越してくるのよ。」


母さんも食卓について食事をしながらマコトに話しかける。


美琴姉さんの名前を聞いて、マコトのマグカップを持つ手が一瞬震えた。


「えっ・・・。美琴さん帰ってくるんですか?(あ・・・美琴さんが帰ってくる。帰ってくるんだ。)」


マコトの表情はどこか戸惑っているように思えた。


何故だろう?


美琴姉さんが家にいたころは美琴姉さんととっても仲が良かったのに。


3人でよくゲームをしていたことを思い出してオレは首を傾げた。


 


 


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