#07 手紙のこと

 お久しぶりです。元気だった?

 ぼくは元気に過ごしていました。

 庭はまだ雪が多くて、朝はじょうろに残った水が凍っていることもあります。でも、少しずつふくらむつぼみが、新しく覗く小さな芽が、もうすぐまた会えるよって知らせてくれる春からのお手紙みたいで毎朝楽しみです。

 今朝はいい天気。

 しばらく滞在していたお客さんが発っていきました。

 どんなお客さんだと思う?


 ◇


 彼女は、脚に手紙をくくりつけていた。

 多分、自分でつけたんじゃなくて、誰かに任されていたんだ。

 彼女は旅の途中で、ここへ立ち寄ったのは休憩のため。

 だけど、一日二日といわず、しばらく過ごした。

 天気の悪い日が続いて、しょっちゅう吹雪いていた。

 彼女が窓から飛び込んできたのも、冷たい風と雪と一緒だった。

 ひどい天気で、翼が濡れちゃったんだ。暖炉のそばで一晩じっとしていたよ。

 ぼくも一緒についていた。心配だったから。

 でも、彼女はこんなの慣れっこだという様子で、平気な顔をしてた。

「それは何?」

 脚についているものが何か、ぼくも知ってる。

 でも、この目で見るのははじめてだった。

「誰へ届けるお手紙なの?」

 たずねてみても、はぐらかすように首を傾げるだけで教えてくれない。

 そうだよね、ぼくだって手紙をひとに見られてしまうのは恥ずかしい。

 きみだけが読んでくれるんだって思って書いているから。

 でも、この手紙だってきちんときみに届いているか、ぼくには分からない。

 ほかの誰かに読んでもらって、いつかきみに伝えてもらえたら、それでもいいのかもしれない。

 伝えたいことなんて、ぼくは元気だよって、きみも元気でねって、それだけだもんね。

 ぼくはそう思うけど、鳩の手紙の差出人はどうだろう。

 ねえ、どんな手紙だったと思う?

 彼女は、誰から預かって、誰に届けるんだろう。

 こっそり見ちゃおうかな。そう思ったこともある。

 だって、なんだか重大な秘密が書いてあるような気がして、わくわくしたから。

 でも、結局見なかった。それはぼくへの手紙じゃないからね。

 いつかぼくにも手紙が届くかな。

 もしその日がきたら、記念日にしようと思う。


 しばらくのあいだ、天気は崩れがちで、雪が続いて降っていた。

 今朝はひさしぶりのお天気で、懐かしいような真っ青な空が広がって、目が覚めて窓を見た瞬間から嬉しくなった。

 だけど、今日があの子とお別れの日だって分かると、やっぱり少しさみしかった。

 彼女は手紙を持って出発したよ。

 いつも誇り高く胸を張っていたのは、彼女にはやらなきゃいけないことがあったからだね。

 誰かの大事な手紙を、それを待ってるひとのところへ届ける仕事。

 ぼくも、この手紙は誰かに届けてもらわないと、きみに読んでもらうことができないから、すごく大切だなって思う。


 無事に届きますように。

 この手紙も、きみに届きますように。


 それじゃあ、風邪をひかないで、元気でいてね。

 ぼくも変わらず元気でいます。

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