第5話 ライバルたちとキタサンブラックのその後

 リアルスティールは三冠レース全てに皆勤かいきんしながらも2着、3着、2着となって涙をのんだが、その後マイル~中距離路線に活躍の軸足を移し、翌春に海外遠征を敢行かんこう。中東ドバイの地で念願叶ってG1勝利を飾り、その後国内でひとつ年上の大器、アジア最強マイラーとしてその名をとどろかせた名馬モーリス相手に安田記念、天皇賞秋と激闘を繰り広げることになっていく。



 一方、菊花賞で一番人気に支持されながらも勝ちきれなかったリアファルは、その年の有馬記念に出走したもののレース中に故障を発生させて戦線から脱落。長い休養を経て何とか復帰したものの以後は精彩せいさいを欠き、大レースを制することも叶わないままひっそりと引退していった。



 秋シーズンを故障で棒に振った二冠馬ドゥラメンテは翌春G2中山記念で復帰して、そのレースではリアルスティール以下を完封し健在をアピールしたものの、その後遠征したドバイシーマクラシック(芝2410m。G1)では当時の欧州最強馬ポストポーンドに挑むも完敗(2着)。最大目標である凱旋門賞へ向けてもう一度仕切り直しとなり、改めて実力を見せつけるべく国内でG1宝塚記念(芝2200m)に出走。その時既に天皇賞春をも制して波に乗っているキタサンブラックと再戦し、二冠馬のプライドにかけて何とか押さえこんだものの伏兵マリアライトに足元を掬われて二着に終わった挙句にレース後に故障が発覚。その後ターフに戻ることなく現役生活にピリオドを打った。



 そして、キタサンブラックは、そんなライバルたちをよそに雄々しく成長していく。

 菊花賞で見事キタサンブラックを勝利に導いた北村宏司騎手はしかし、その後落馬事故による長期離脱が長引いてそのまま主戦騎手の座を降りることになり、横山典弘よこやまのりひろ騎手の代打騎乗を挟んで、新たな主戦騎手となったのは父の背中を知る武豊騎手だった。

 武豊をその背に乗せたキタサンブラックは時に苦々しい敗北を味わいながらも5歳の秋シーズンまで国内の中長距離ちゅうちょうきょり路線で活躍を続け、引退するまでにG1レース最多勝利タイ記録となる7勝を挙げ、また獲得した賞金額は18億7684万円にのぼり、それまで歴代一位であった「20世紀末の覇王」ことテイエムオペラオーを抜いてトップへと躍り出た。海外遠征こそ最後まで叶わなかったものの、その名は広く世界の競馬関係者に知られ、日本を代表する名馬として幅広いファンに愛されながら、そして惜しまれながら現役を引退していったのだった。地味なスタートからは想像もできない、華々しい終わり方だった。

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