第4話 その力は血統を超えて
レースが始まったその時、キタサンブラックはいつものように先行せず五番手集団に控えていた。一番人気のリアファルがその快足を生かして大外から前へと進出し二番手へ、二番人気のリアルスティールはキタサンブラックより後方の七~八番手に待機、リアファルの
最初にレースが動いたのは2000mを超えたあたりである。逃げ馬を見ながら二番手でレースを引っ張るリアファルを早めに捕捉したい後方勢が徐々に前へと進出を開始し、それを察知したリアファルも粘りこみを図るべくペースを上げていった。しかし、キタサンブラックはそんな周囲をよそに淡々とマイペースを貫いた。周囲が位置を上げていった関係で第三コーナーに入ったときの位置は後ろにいたはずのリアルスティールより後方、十番手くらいにまで下がっていたが、キタサンブラックは慌てなかった。
そして、第四コーナーに差し掛かるあたりでリアファル以下先行勢が失速しだしたのを見澄まして、遂に2番人気のリアルスティールが本格的に進出を始め、キタサンブラックもまたそれに合わせるかのように位置を押し上げて追撃を開始した。
リアルスティールが父ディープインパクトを彷彿とさせる
かつて、父ブラックタイドの主戦を務めたこともある名手、
「ブラックタイドにはもう一つ、隠されたギアがある」、と。
ブラックタイドは故障の影響などもあり、
そして、もし、その「隠されたギア」がその息子たるキタサンブラックに受け継がれていたとしたらどうだろうか?
キタサンブラックは走った。故障で
ゴールより50mほど手前の地点で、二番手追走から懸命に逃げ粘ろうと抵抗するリアファルを捉えてかわし切ったリアルスティールとキタサンブラックは激しい叩き合いを演じていた。
リアルスティールと鞍上の
両者譲らない激闘はゴールまで続いたが、最後に競り勝ったのはキタサンブラックだった。ゴールするその瞬間にクビ差だけ前に出ていたのである。
キタサンブラックは距離への不安を跳ね除けて、血統を超えたその力を日本中の競馬ファンに見せつけたのだった。
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