第5話 現代に生きるということ2

 僕は自分の子供たちに、これからどうやって生きて欲しいかを度々考える。

 つくづく難しい時代になったからだ。

 日本の雇用形態は様変わりし、終身雇用は終わりを迎えている。これまでの有名企業が衰退を見せ、早期退職制度が当たり前に定着しつつある。これは世界に目を向けても同じ。

 そしてそもそも日本の企業に勢いがなくなった。伸びが鈍い。更に社会的には前代未聞の少子高齢化到来。国内需要に頼る企業は、将来展望が見通せない。

 そして我が家の子供に限っては、ほとんど日本語を話せない。生きる舞台が日本以外のどこでもよいという利点がある一方、そうなれば自分は何も手助けできない。

 こんな事情を抱えながら、子供たちは日々歳を重ねている。

 昔ならもっと大雑把で済んだ。

 頑張れ! 程度のことを言って放っておけばどうにかなった。いや、何も言わなくてもどうにでもなったのだ。

 むしろ放っておくことで、子供は逞しく育ったのではないかという気がするくらいだ。

 今はどうだろう。

 どうにでもなるから心配するな、今のうちに精一杯好きなことをやっておけなどと言う度量は、大人の側になくなってしまった。

 なぜかといえば、大人が普段から叩かれ揉まれて疲れ切っているからだ。

 大人が追い立てられて、そのあげく大人が子供を追い立てる。

 反動なのかそれとも思いやりなのか分からない。あるいは自分を安心させたいのかもしれない。

 もう疲れた、とても成人後のお前たちの面倒まで見きれない、どうにか優秀になって立派に自立してくれ、できることなら立派になって俺の鬱憤を晴らしてくれ、一杯稼いで安心させてくれ。

 そんな打算が愛情という言葉の裏に潜んではいないか。積年の怨みが、子供への過度な期待に繋がっていないか。

 最近の子供は窮屈そうだ。

 いつでも清潔でいなければならず、優秀でお利口さんでいなければならず、神経質になるくらい大人の顔色を伺わなければならない。

 思いやりとか協調性とか創造性は二の次で、一先ずテストでいい点数を取っておけば親が喜ぶ。

 点数を稼ぐコツが重要で、好奇心を満たす学びはどうでもいい。いや、そもそも好奇心が育たず、疑問を抱くことが少ない。


 僕は自分に導く力がないことを自覚しているから、子供自身に自分の道を切り開いて欲しいと願っている。

 そのためには、子供にのびのび育って欲しい。

 我が家は親がほとんど決め事をしない。いつも子供に、自分で決めろと言っている。

 自分で決めて自分で責任を取れということだ。

 遊びたいなら好きなだけ遊べばいいし、それで成績が悪くなっても俺は知らん。なにせお前たちの人生だから、というスタンスを貫いている。

 だからできるだけ押し付けをせず、何かを失敗してもこちらは叱らない。自分で失敗に学べばいい。学べないならそれも自分の責任ということだ。

 ある意味実験的子育てであることは自覚している。

 しかしその結果どうなっているかといえば、まあまあ上手くいっている。

 学校を何度か変わっているけれど、不思議とどこの学校でも一番という成績をもらってくる。

 自分の生活を便利にする知恵を持っている。

 自分の楽しみを作る力を持っている。

 将来の揺るぎない夢を持っている。

 大人が言わなくても遊んだあとはきちんと後片付けができる。

 食べたあとの食器は、必ず自分でシンクに持っていく。

 食べ物を粗末にしてはいけないことを知っている。

 友達の中で必要以上の我を通さない。

 傍若無人な子供の多い海外の地で、その辺りに対する教師の評価は思いのほか高い。

 それなりの理性や常識が醸成されているようだ。

 しかしいくら成績が良かろうが生活態度を褒められようが、こちらは手放しで喜んだりしない。

 生活態度については褒めてあげるが、成績についてはそれが子供たちの将来を約束するとは限らないからだ。

 一番大切なのは、いつでも現状を把握し判断し決断し実行することだろう。会社でも家庭でも、どんなシチュエーションにおいてもそれをできることが重要で、そうしたことに長けている人間が這い上がる。

 

 自分はもう今更感があるけれど、子供にはまだ長い先がある。

 そもそも地球がどれほどもつかということはあるが、そしてコロナのように人類の存続を脅かす脅威も色々あるだろうが、挑戦する前から生きる前提となる環境が失われてしまうのは可愛そうというものだ。

 そこは他力本願で何とかなって欲しいと祈るばかりである。

 だが、金持ちにならなくても地位を得ることができなくても、生きるって楽しいねと思える生き方ができればそれが一番だ。

 みんながそう感じることができれば、それだけで世の中は救われる。

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