くっころとかなにお前もなの?

「お父様っ、しっかり…!」


国王に駆け寄るアンジェ姫。

ここは先ほどカマキリ女が大暴れした王城。

城の内部はカマキリ女の生々しい斬撃の跡と

倒れた大勢の兵士達。

そして天井にはそのカマキリ女であったであろう腕の一部がぶっ刺さったまま。


「…う、こ、ここは…」

「お父様!目が覚めましたのね…!」

「おお、我が愛娘アンジェよ!奴は!?」


国王ガイザはすぐに戦闘態勢に戻る。

何たる不覚。

戦闘中に気を失うとは!!

かつて世界を守り抜いたものの一人とは思えない体たらくよ。

老いのせいにはしたくはないがあの魔のモノは強敵だ。

せめてこの我が子だけでも生かして逃がさねば…!


「魔物はもう倒れました」

「なに!?」


いつの間に!?

気絶している間に一体何があったというのか。

しかしいったい誰があの恐ろしい魔のモノを?


「先日お父様にお話ししたあのお方が助けてくれたのです…!」


あのお方…?

ああ!たしか族に襲われたときに助けに現れた

貴族か王族かよくわからんけど我が愛娘が惚れちゃったっていう

あのお方か!!ああ、覚えてるよ!!!殺すね!!!!!


「あのお方の執事…だと思うのです」

「執事の方か」


執事の方に惚れていたんじゃないよね。

じゃあ許しちゃう☆


「で、その者は?」

「はい、あちらに――」


アンジェが指さす方向を見る国王ガイザ。


しかし、そこには誰もいなかった。




「——ここか」



ズバシャァアアンッ!!!!


落雷と共に現れたセバスチュン。

そこは王都より遥か南に位置する平原。


「…違うな」


魔王の気配、と思って瞬時に移動してきたのは良いが

どうやら当てが外れたようであった。


異質。


確かに魔力はその場に漂っていた。

が、それは今まで感じ取ってきた魔力にあらず。

これに似た魔力と言えば…。


(さっき城にいたなんかへんなやつの魔力に近い。だが…)


強大すぎたのだ。

恐らく近くにいる。

全身を藪蚊に包まれたような不愉快感と

まるで体にねばりついてくるように漂う殺気。


「ある意味、あたりだな」


セバスチュンは対峙する。

人間界に侵入した異界の異物と。

一連の騒動を巻き起こした元凶と。



―――――――――



無音。

しかし、その異物は近づいてきた。

足音がない。

草むらの上を歩けば葉を踏む音や

草をかき分ける音位するというもの。


それが全くない。


しかし、歩を進めて近づいてきている。

そしてどうだ、その者が歩いた後は

草木は枯れ

みるみる荒れ地と化していく。


セバスチュンはメガネをふきふきしていた。

慌てる様子もなく

焦るしぐさもない。

ただただメガネについた砂埃を拭きとっていた。


拭き終わるとメガネをかけて前を見据える。


いた。目の前に。



いや近いな。




セバスチュンの身長の倍はある虫魔界の王

魔虫王はそこにいた。




両者、無言。


魔虫王はセバスチュンを見下ろし

セバスチュンはだるそうに魔虫王を見上げる。


どのくらい時間がたったか。

時の進みからしてその間は秒。

しかし両者の間に流れる時間という感覚は

あってないように思える長さであったことだろう。


すると先に口を開いたのは


「我を前にして耐えうるものがいるとはな」

「はァ?」


魔虫王だった。

秒で睨み返すセバスチュン。


魔虫王は思った。

こいつも通り過ぎるころには枯れ果てる事だろうと。

近づくだけで枯れ木のごとく消え失せるものと思っていた。

しかし近づいても何の影響もないどころか

魔虫王が握手しよって言ったら握手できる距離まで近くにいて

それでもなおメガネを拭き続けていたセバスチュンに


「驚いた。お前が初めてだ」

「だるいんだよ。お前のしゃべり方」


間髪入れず悪態をつくセバスチュン。

はあ。どうせすぐ消えるだろうけど

魔王様に報告するために一応聞いてやる。


「何しに来た?」


この人間界に何しに来たのか。

只の侵略目的なのか。

それともほかに何かあるのか。

どうでもいいが聴くだけ聞いてやる。

で、消す。


「この世界のクッコロを手に入れる」


魔虫王が答える。

何の迷いもなくこう言った。


クッコロを手に入れる、と。








―――――は???????????????????—————





くっころとかなにお前もなの?

え、なに、くっころってなんなの?まじなんなの?

魔王様~、わたくし、もう頭がどうにかなりそうです~。

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