世界の存亡はクッコロにかかっているのだ

(くっころを手に入れるってお前…)


金髪テンパのセバスチュンはもうよくわからなくてテンパっていた。


なに?

要はそのくっころ欲しさにこの世界に乗り込んできたと。

わあ。


意味が不明すぎてメガネを取り

目頭をつまんでハァ~っ…ってすんげえ重いため息をつくセバスチュン。

その様子を見た魔虫王は――


「その素振り。知っているな?クッコロを」


いや知らねえよ。

いやちょっと知ってるけど多分そのくっころじゃないわ。

くっころじゃないわってなんだ。

あ~もうわっかんねえよこれ。


「そしてそのクッコロの在り処を知っているのはお前というわけだ」


お前というわけだじゃねえんだわ。

知らねえし知りたくもねえわ。

ああもういいや消そうこいつ。けそ。


セバスチュンの身体のバチバチがなんかこういっそうバチバチし始めた。

ドアノブに手が触れたときの

バッチィイインッ!!!!!

って無駄にでかい音のなる静電気が絶え間なく起きてるようなくらいそんな

そのなんだ

――バチバチだった!


「ククク、まあそう殺気立つな」


目的のくっころに近づけたと思った魔虫王は笑う。

はいざんねんでーす的外れでーす。


「取引をしないか」


はあ?


「クッコロさえ手に入ればこの世界に用はない。

 無駄な争いを避けることができるわけだ。

 まあ、このままクッコロが見つかるまで世界を破壊してもこっちは良いのだ。

 それが回避できるなら悪い話ではあるまい?」


知らねえんだわだから。

お前の言うクッコロなんて知った事じゃないんだわ。


イライラしすぎてまたクソ重いため息をつくセバスチュン。

体中にイライラという名の電力が蓄積されて

ああもうこれ破裂しますこれ。

充電のし過ぎですこれ。


その様子を見た魔虫王。


「——そうか。お前とて、境遇は同じ…というわけか」


何一人でわかったように勝手に話すすめてんの?


「世界の存亡はクッコロにかかっているのだ。

 お前の世界もクッコロを失えば滅ぶ。

 こちらが手を下さんでもな。

 おとなしくクッコロを渡しても滅び

 こちらが世界を破壊しても同じ末路。

 クッコロとはなんと酷なことを強いる。

 だが同情はせん。

 こちらとて同じ状況であることには変わりない。

 もっとも、こちらはクッコロが自分の世界にない時点で

 不利なスタートではあるがな」


長い長いながいながいNAGAIって勝手に話を進めんなや。

てめえが言うくっころの意味が分かんないんだよこっちは。

大体な――


「くっころが何かわかってないんだろうが」

「—————フ」


フじゃねえんだわ。


「今のお前と違ってこっちは破滅を唐突に突き付けられたのだ。

 クッコロなるものが何なのか探りながらの状態だ。

 生物なのか。

 モノなのか。

 あるいは事象なのか。

 まるで分っていない。まるでな。

 その点この邂逅は幸運ともいえよう。

 こうしてクッコロを知るものに出会えたのだからな」


知らんのよごめんて。

てめえが俺がまるで知ってんでしょみたいな流れで話すからさ

もういや知らねえしっていうタイミング完全に逃したんだわ。

まあいいわ。

てめえはここで消えるしな。


「——あれはそう。虫魔界を統治して400年の月日が流れた先日の事だ」


なに回想入るの!?

いいってもう!!わかったから!!!

てめえはもう俺が消し飛ばすんだから!!!!!

ああもう回想入るじゃn——


―――人間界侵攻前日——―


魔虫王は自分の城にいた。

王の間には魔虫王だけ。

玉座位に座り片手にグラスを持ち酒を飲む姿はどこか虚しささえ感じる。


魔虫王は虫魔界の実権をその圧倒的力で手に入れてから

400年の月日がたっていた。

何物も虫魔王に逆らうものは現れず

また別魔界や天界から戦争を仕掛けられるという事もなかった。


「——こうも何もないのも退屈が過ぎるというものだな」


魔虫王は力を持て余していた。

未だ自分を超える強者が現れないという現実。

自分と互角にすら戦えるものがいない虫魔界に

魔虫王はテンションが上がらずにいたのだ。


「いっそ別魔界に攻め入るかこちらが」


別魔界への侵攻は珍しい話ではない。

もともとこの虫魔界も侵略によってつくられた魔界。

つまり過去に滅ぼされた魔界があったという事だ。

別魔界の侵攻は膨大な魔力を必要とするため

弱小魔界では別魔界に行くことすらできないことが大半である。

よって自分の魔界より力を持つ魔界に攻め入られたら

短期間で決着がつくことが多い。

力を持つ魔界は外魔界へどんどん侵攻している。

虫魔界はそれを成す十分すぎる力を持っている。


「新たな領地を手に入れるいい機会であろう――」


(◆)その必要はない(◆)


「———!!!」

思わず手に持つグラスを落としてしまう魔虫王。


突如聞こえた声…

いや文字、あるいは記憶。

なんと表せばいいかわからないが確かにそう捉えることができた。

そして今まで感じたことのない――気配。


(何だこの感覚は…!?)


魔虫王は動揺を隠せない。

いまだかつてこんな心境になったことがあっただろうか?

いやない!!ないのだ!!!

自分がどうあがいても勝てない存在に遭遇することなど今までなかったのだ!!!

それがわかる、今の一言で!!

戦ってもないのに?

姿も見えないのに?

声すら聞こえないのに?

そこにいないのに?


しかし魔虫王は強者故に感じ取ったのだ!!!


(この存在に――勝てない――!!)


王の間には魔虫王しかいない。


(◆)この魔界は滅ぶ(◆)


「!!!!」


虫魔界の滅亡…。

それが近い未来起きることが魔虫王にはわかってしまった。

今の感じたそのままにわかってしまった!

そしてどうすることもできないことも悟ったのだ。

今まで向かう所敵なしと思っていたが

ここまで無力であるとは。


――敗北——


魔虫王が初めて味わった屈辱。

なぜ滅ぶ?

どのように?

いつ?


意味のない自問自答。

決定された未来に抗う術はない。

どうすることもできない。

ただ破滅の時を待つしかないのだ。


(◆)人間界でクッコロを得よ(◆)



「———がァはッっ!!!??」


飛び起きる魔虫王。

どうやら玉座で転寝をしていたようだ。


――転寝…だと…?


しかし自分にはわかる。

今のは夢ではない。

それは転寝など今の一度もしたことがなく

また、できない自分だからこそよくわかるのだ。


「ハッチはいるか」


「チチ!!ここに!」


配下のハッチが闇より出現する。


「出るぞ。皆を集めろ」


「チ!!しかし何処へ?」


「人間界だ――」



・・・・・・・・・・・・



こうして人間界にやってきた魔虫王。

空を見上げながらセバスチュンに事の経緯を伝えたのだ。


へー。あっそ。


話の2%くらいしか頭に入れる気がないセバスチュン。


魔虫王の周りがどんどん薄暗くなっていく。

魔虫王を中心に草木が枯れているのはいったい何なのか。


対してセバスチュンは終始バチバチ放電しており

セバスチュンを中心に彼のいるところだけ草木は枯れていない。

黒い霧がどんどん黒さを増していく。

夜になったのではない。


魔虫王の周辺だけが夜のように暗くなってきているのだ。

それに伴ってセバスチュンの周囲もバチバチの頻度が多くなる。


「これでもなお何事もなく立っていられるとはな。

 やはりお前は強い。

 今まで知っている誰よりも」


何の話なんだよさっきから。


「先手はくれてやる」


魔虫王は人先指でこう、くいっくいっ、ってした。


てっきりくっころの在り処を聞き出すことに専念するのかと思ったけど

ああ、そういうこと。


「てめえさ」


魔虫王の眼前にセバスチュンの拳がいつの間にか迫っていた!!


「自分より強い奴と戦えるんなら――」


セバスチュンの拳がバチバチに帯電してて、でもう眩しくて何も見えな――


「——自分の魔界、割とどうでもいいんだろ?——」



ズッッダァアアアッァアアアアアアアアンッ!!!!!!!!!



平原に巨大な雷が落ちる!!!!!



「——!?」


遠くでもわかるその雷撃が嫌でも目に入ったメイドのメイ。

距離は相当離れているのにメイドのメイの場所まで

雷撃の衝撃が伝わってきてさらに静電気で長い髪が

ぶわぁあっって逆立ったのだ!!!!


「トリ頭…あいつ…!」


メイドのメイにはわかった。

あれほど強大な雷撃をセバスチュンが放つという事は

即ちそれだけの強敵と対峙しているのだと!

即座に分かったのだ!!

セバスチュンが危ないと!!!


「ざっけんなやマジで!!!この髪どうしてくれんだ!!!!

 整えるの大変なんだからね!!!!!!

 魔王しゃまに顔向けできないぢゃん”!!!!!!!!!」


違った。

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