クッコロがあるはずだ…

人間界に侵攻してきた魔虫王の配下たち。

その数は4匹。


空を覆うほどの巨大なゴキブリが一匹。

魔虫王のペットである。

虫魔界で伝説ともされるこの巨大ゴキブリの名は【千年厄虫】と呼ばれており

動くだけで世界を破壊する力を持つ。

虫魔界は千年周期で一度あらゆる種族が滅亡に瀕する。

弱い種族は滅び

強い種族は生き残る。

それを引き起こすのがこの巨大ゴキブリなのである。

しかし、魔虫王はこれを飼いならした。

故に千年に一度世界が滅ぶことはなくなった。

王が命じればその時が

世界が滅ぶときになるのだから。


そのゴキブリに乗ってやってきたのが他3匹。


一匹目。


その姿かたちは人型の蜂。名を【ハッチ】

虫魔界で残忍とされる種族の一つアサシンビー。

その凶悪さは虫魔界でも有名で

アサシンビーの種族によって滅ぼされた国は数知れず。

この種族は国を持たず各地を転々とする。

ある時は食糧確保のために国を侵略し

またある時は国同士の争いに介入する。

ハッチは種族の中で一番の殺し屋で

魔虫王の暗殺任務に関わった張本人であった。

しかし、暗殺は失敗。

尽きたと思われた命は魔虫王にその力を認められ

魔虫王直属の近衛兵となったのだ。


二匹目。


人の形はしているがその姿は一目でわかる大蜘蛛男。名を【タランチ】

屈強なその肉体は外敵からの攻撃を防ぎ

獲物を捕らえ離さない強靭な手足は並の力では太刀打ちできない。

鋼蜘蛛族と呼ばれているこのタランチは同族のいる巣から脱走していた。

鋼蜘蛛族は争いを好まない。虫魔界で珍しい同族のみで築かれた巨大な国家である。

外部からの侵入さえ決して許さない強固な巣という名の国を築き

また内部から同族が出ないように管理された実に閉鎖的な種族であった。

同族で争う事もなく管理された国であり、

虫魔界の殺伐とした世界に似合わぬ平穏さがそこにはあったのである。

タランチという異端者が誕生するまでは。

突然変異と言ってもいい。

その種族に見られない異様に巨大な体格と

どんな攻撃をも防ぎきる異様な硬さを持つその体は

いまだかつてない個体の誕生であったのだ。

自国内で敵う者はいない、仮に外敵に攻められても打ち払う事の出来る力。

しかし今や虫魔界で鋼蜘蛛族はタランチ一匹しか存在しない。

――他の同族はすべて彼が捕食したのだ。

窮屈な狭い世界から脱走し、彼は解き放たれたのだ。

しかし彼が自由を求めたから同族を食い尽くしたのではない。

――ただ、そこに餌があったからにすぎなかったのである。

難攻不落にして不屈の鋼蜘蛛族の砦は凶暴な捕食者によって内部から食い破られた。

その後、魔虫王の圧倒的力に平伏し近衛兵となる。


三匹目。


我らが王の住みよい世界のために。

三匹の中で魔虫王に対する忠誠心が一番強いのがカマキリ女こと【カマヨ】

騎士鎌切と呼ばれる種族の一匹である彼女は魔虫王の強大な力に魅了され

自ら進んで近衛兵に志願した過去を持つ。

当然彼女には種族として本来仕え守る王は存在していた。

規律と忠誠を重んじる騎士鎌切族は決して自国の王を裏切ることはしない。

が、彼女にはその一族の教えや性は通用しなかったのだ。

それほどにまで魔虫王の強さは別次元であり

魔虫王こそ騎士鎌切族が仕えるべき王なのだと心酔している。

だがその忠誠心だけで魔虫王が彼女を認め迎え入れたのではない。

彼女が持つ鎌は異常な切れ味を持っており

あの強固なタランチの腕の一本を切断する力を持っていた。

加えて彼女は虫魔界で美食家という名の悪食でも有名である。

タランチの腕を切り落としたのもどんな味がするか気になったからであって

彼女はその味を確かめる為なら誰であろうが何であろうと手段を厭わない。

その捕食対象が例え、同族とその自国の王であっても――



虫魔界でも強大な力を持つ者を先行させて人間界へ向かわせた。

ある程度世界を蹂躙し

その後、魔虫王が到着して世界を手中に収める――



はず、だったのだ。



「……尽きたか」



魔虫王は、人間界に到着した。

その瞬間悟ったのだ。


先に送り込んだはずの配下たちがすでに生きていないという事を。


全身茶黒のカラダ。カブトムシのような見た目をしている。

しかしカブトムシというにはあまりに大きいその体と

頭に生えた角は虫というには不釣り合い過ぎた。


――悪魔。


きっとこの世界の人間は魔虫王を見たらそう言う事だろう。

並の人間ではその姿を前にして立っていることすらできないほどの圧力。

魔虫王はとある平原のど真ん中に突如出現した。


空を見上げる魔虫王。


沈黙。


「————————」


いや、なにかをつぶやいているのだ。


なにを?


「———ここに」



―――クッコロがあるはずだ…———



魔虫王の立つ緑豊かな平原は

いつの間にか、枯れ果てた荒野と変わっていた――

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