くっころって言ったよね?

「じょ、女王様ぁあ!た、大変でございまする!!」


ドエス帝国の大臣が慌てて女王の間に駆け込んでくる!


「なんだ騒々しい」


女王様は今日も鞭で近衛騎士をビシバシとああいいなぁうらうあましい

じ ゃ な く て !!


「ご、ゴキブリです!!超巨大なゴキブリが我が帝国に向かってきます!!」

「わかっておるわ。だからこうして考えているのだ、見てわからんのか阿呆」


それ考えてたんですか!?鞭打ちながら!?さっすがあ女王様ぁあ!!


「…チっ、忌々しい虫め。あれほど巨大でなければ我が鞭で仕留めたものを…」

「鞭でやる気だったんですか!?」


女王様はなんでも鞭で解決しようとする癖がありまして


「ど、どうしましょう!!報告によると巨大ゴキブリが通った町や村は

 その羽ばたいた際の風でまるで災害にあったかのよう!嵐でございます!!

 跡形もなく家々は吹き飛び、山々の木々は根こそぎむしり飛んで

 討伐に向かった兵士達も相手は遥か上空!!手も足も出ません!!」

「鞭も届かんしな」

「鞭は無茶ですって!?」


射程距離【鞭】思考な女王様

 

「いかがされますか女王様!?」

「そうさね、大臣。そこに四つん這いになれ」

「はいッ!!」


四つん這いになる大臣。

その背中に座り足を組み考え込む女王様ありがとうございます!!


(…さて、どうしたものか)


これが占いジジイが言っていた混沌の申し子とやらなのか?

以外に来るのが早かったな。

だが、今の帝国のあらゆる技術をもってしても

あの巨大ゴキブリには太刀打ちできん。

直に奴はこの国にまで飛来し破壊の限りを尽くすだろう。


(ええい、なにか手はないものか…!)


苛立つ女王は鞭の柄で大臣のケツを刺すあ”あ”あ”あ”りがとうございます!!


「も、申し上げます!!」


見張り塔の兵士が転がり込んできた。


「なんだ」

「き、巨大ゴキブリが!見張り塔より肉眼で確認できる距離まで迫っています!!」


早すぎる――

女王は立ち上がると見張り塔まで駆け上がる。


「———」


見張り塔で女王は絶句した。

いた。巨大なゴキブリだ。

すでにこの城にまでゴキブリが羽ばたいたときに巻き起こっているであろう

強風がここまで届いてきているのだ。


「急ぎ民たちを逃がせ!!城中の者に伝えろ!!」

「は、はッ!!」


まさかここまで早いとは。

今から民たちが逃げても間に合わないだろう。

しかし、一人でも多く生き残れば希望はある。


「女王様ッ!!」


大臣も息を切らせながら見張り塔へ上ってきた。


「女王様!ささ、あなた様もお逃げになるのです!!

 すでに飛行船の手配は用意してあります故!!」

「民たちを優先させて乗せろ」

「な、なにを言うのです!!あなた様が最優先でございます!!

 この国はあなた様がおられなければ意味がない!!

 たとえ民が生き残ってもあなたがいなければ国は滅んだも同然!!」


「たわけが!!」


怒鳴りつける女王様ありがとうございます!!


「わらわがいなければ存続できん国など滅んでしまえ!! 

 そんなやわな国に仕立て上げた覚えはないわ!!

 この国の民は強い!そのために鞭をふるってきたのだ!!」


だから毎日この国の民に鞭を!?てっきり女王様のご趣味かとばかり思って…


「女王様はどうされるおつもりなのです!?」

「ここで奴を迎え撃つ。この見張り塔の高さならば

 奴の薄汚い体に鞭が届くやもしれん」

「無茶です!!あの暴風をご覧になさい!!

 見張り塔なぞ、奴が近くに来る前に吹き飛びますぞ!!」

「口答えするな豚がァア!!」


また大臣の顔面に鞭がぶひい


「大臣。貴様も船で脱出しろ。クソほどに役に立たんからな」

「あんまりです女王様!あなた様がここに残るというのなら私も残ります!」

「わらわの言葉も理解できんとは、どうやらクソ以下らしいな大臣。

 貴様が先頭に立ち民を逃がせと言っているのだ阿呆が」


わかっております…!しかし、それでは女王様が――


「大臣よ――」


いつも冷たい視線と表情。

冷酷無慈悲と恐れられた女王様が――


「いままで、世話になったな」


大臣に傷薬を手渡す。

その表情は今まで一度も見たことのないやさしい笑み。

これを、鞭打ち傷に塗れと…そう仰るのか――


「…民の事はお任せを…!誰一人として、死なせはしませぬ!!」

「当然だ。出なければ貴様が死ぬがいい」

「喜んで!!」

「あとその薬は民のためのものだ。貴様のものではない」


流石です女王様あひい!!

見張り塔を駆け下りる大臣。

それを横目で見送る女王。


ようやく行ったか。

相変わらず頑固な大臣だ――


巨大ゴキブリを睨みつける女王。

その距離はどんどん近くなり、ゴキブリの巨大さがわかる。

遠くからも大きいことは見ればわかるが近くなればなるほどに――


ふっ、大臣の言う通り鞭ではちと無理があるかもしれんな。


恐怖――

助かりはしないだろう。

普段はゴキブリを叩き潰してきた人間が

今度は逆にゴキブリに叩き潰される――


「なめるなよ」


女王が鞭を構える。


「命尽きるその一瞬までわらわは屈せんッ!!

 来るなら来い羽虫。

 その身に鞭の味を叩きこんでくれよう!!」


ゴキブリがどんどん近くなる。

巨大な嵐が来たかのように風は荒ぶり

ゴキブリが巻き起こした風で家や木が吹き飛んでいく。

あまりの暴風に女王も立ってられず、まともに目も開けられない。


「馬鹿なッ!?まだ奴は遥か向こうだというのにこの風は――」


見張り塔が風で吹き飛ぶ。

女王もまるで宙を舞う紙切れのように飛ばされた――


民は逃げ延びたのか――?

逃がす時間も稼げずに終わるとは――

たかが羽虫ごときに殺されるとは――


「——くッ――」


惨め。

こんな屈辱生まれて初めてだ。

こんな――こんなゴキブリごときに――!!


「——ころされてェ!!たまるものかァアあああアア!!」

「今くっころって言った?」

「な!?」


いつの間にか女王は上空で見知らぬ男に抱きかかえられていた。

というか魔王だった。


「なんだ貴様は!?」

「なんきんじょう?」

「な ん だ き さ ま は !?」


風が耳元でぶぅわぁああってなって何言ってるかわかんない。

魔王は城から転移魔法で移動してきたのだが

くしゃみをしたら座標がずれて変なところに出てしまったのだ。

セバシュチュンとメイドのメイと一緒に来たのにはぐれちゃった。

辺りを見渡すと巨大ゴキブリが目に入って


「うわでかキモっ!」


思わず素が出ちゃった魔王。


「ええい!わらわの身体に触るなたわけがァア!!」

「たわし?」

「 た わ け が !!!」

「ちょっと何言ってるかわかんないから待ってて」

「!?」


魔王は空中で女王を解放し

そのまま巨大ゴキブリ目掛けてぶっ飛んでいく。


「な、なんなんだ奴は!?」


この暴風をものともしない。

一直線にゴキブリの所へ飛び込んでいったかと思うと

魔王はゴキブリの頭に着地した。

そして手をかざすと――


「や」


一瞬、ゴキブリを闇が包み込んだかと思うと――消えた――

あれだけ巨大だった物体が一瞬で消え去ったのだ。

風も収まりまるで何事もなかったかのよう。


「—————」


その様子を遠くで見ていた女王。

真っ逆さまに落下しながら。


一体何が起きたというのか――


「で、さっきの話なんだが――」


いつの間にか地上に足をついていた女王。

呆然と立ち尽くす。

目の前には先ほど理解できないことを見せつけた謎の男が――


「さっき、くっころって言ったよね?」



なんの――はなしだ――?

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