くっころ欠乏症

「魔王しゃま~ん!メイドのメイ、只今戻りましたぁ~ん!」


ルンルン気分で魔王城に返ってきたメイドのメイ。

買い物袋を両手いっぱいに持ちながら

入口の扉を蹴り破るいや蹴り破るな。


「早かったなメイドのメイ。今日の夕飯は何か」

「うぇへへ、今日の夕飯はですね~」


出迎えてくれた魔王にメイドはじゅわじゅわ溶け出す。

今夜は愛情たっぷりの料理を作ってあげるのだ――


「うぶおえあああああああ!!」

「魔王しゃま!?」


突然吐血する魔王!?

い、いや、これは血じゃない!?

ヨーグリュトだ!!今朝飲んだ飲むヨーグリュトだ!?

一瞬で魔王が吐いたヨーグリュトをきれいに掃除して

ごくりと喉を鳴らすメイド――!?


「しっかりしちぇくだしゃい魔王しゃま!!いったい何が――」

「…くっころ欠乏症だ…」


くっころ欠乏症――!!

体内に長時間くっころが取り入れられないと発症する!

動悸やめまい、テンションの低下、吐ヨーグリュト…

魔王の体内にはくっころが不足していたのだ!?


魔王城に落雷!

窓ガラスという窓ガラスが砕け散り飛び

魔王とメイドの近くに雷が落ちる。


バチバチいいながら帯電テンパの執事が帰還した。


「魔王様!?どうされたのです!?」

「くっころ欠乏症よクソメガネ!」

「は?」


なんだよくっころ欠乏症って。


「…め、メイドのメイよ…」

「ひゃい!!」

「我の書室から…あれを…」

「あれでございましゅね!?すぐにお持ちしましゅ!!」


どれでございますか?

まずこの状況を説明してくれ。

おそらく魔王様はこの場で吐ヨーグリュトをなされたのだろう。

床のヨーグリュトを掃除した痕跡がよく見え――

すごいなこのメガネは本当によく見える。


慌てて書室から一冊の本を一瞬で持ってくるメイド。


「魔王しゃま!!どうぞこれを!!」

「…礼を言うぞ、メイドのメイよ…」


その手に取った一冊の本こそ魔王のバイブル。

タイトルは【魔王様とメイド 禁じられし壁ドン 第三巻】

震える手で本を開く魔王――




『きゃっ』


魔王様の寝室で一人掃除をしていたメイドが

不意に魔王の壁ドンを食らう。


『いつ俺の部屋を掃除していいといった?』

『ま、魔王様…!』


いつの間にか現れた魔王に驚くメイド。

魔王の顔が近すぎて息をするのもためらってしまう。


『俺に壁ドンしてほしくて、わざとやっていたな?』

『そ、そんな!違います!』

『ほう?違うのか』


魔王の手が壁から離れる――


『ま、待ってください!』


その手をきゅっとつかむメイド。


『…わ、わざと…してました…』

『くくく』


頬を赤らめ涙目で訴えるメイド。

魔王はメイドの耳元に顔を近づけると――


『わかればいい――』


甘く囁いた――




読み終えると魔王は静かに本を閉じ――


「これじゃ…ない…」


これじゃなかった。

がくりと気絶する魔王。


「魔王しゃまあああああああ!!」


後日、持ってきた本はメイドの私物と判明。

魔王様は無事くっころ本を読んだことで全回復した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る