胎動するくっころ
「!?」
バイト終わりの帰り道。
いつものように買い物を済ませて魔王城に帰還しようとしたメイドのメイ。
王都の青果店から出たところで異様な気配を感じた。
「な、なんなのこの悪寒は…!?」
辺りを見渡すが――特に変わったものはない。
道行く人々。
賑やかな大通り。
談笑する証人と買い物客。
なんら変哲もない光景。
今ちらっと、人気のない路地に
見覚えのある金髪テンパトリ頭野郎が人間の少女と入っていくような気がしたが
おそらく気のせいだろう。
いくらあの帯電静電気頭が血も涙もない下種以下の鬼畜メガネだったとしても
いたいけな人間の少女を人気のない路地裏に誘い込んで
『ぐへへ、活きのいい人間のメスガキは味が良くてたまらねえぜえ~』
『いやあああ!!やめて!触らないでええ!!けだものぉおおあああ!!』
『げへへ!まずはその柔らかそうな耳たぶをカミカミしてやらあ!!』
『いやあああああああああああ!!』
とかするはずはない。
そんなことが頭をよぎったから悪寒がしたのかしら?
そうに違いないわ。あ――
メイドのメイが買ったばかりのリンゴを一つ落とす。
緩やかな坂道の上からコロコロと転がっていくリンゴ。
「あ!!いけないリンゴが――」
慌ててリンゴを追うメイドのメイ。
賑やかな王都も気が付けば夕暮れ。
これから夜の王都は夜の賑わいを見せてくれる。
沈みゆく夕日を眺める一人の青年がいた。
「——混沌の申し子」
ぽつりとつぶやく青年。
彼の名は――シリアス。
「僕は悲しい」
何が悲しいというのか。
「この世界が終わりを迎えるのが」
世界の終わりを憂うシリアス。
混沌がもたらす終焉。
重くのしかかる非常な未来を嘆いていた。
「願わくば――」
シリアスの足元に転がってきたリンゴ。
それを拾い上げる。
「——この世界に、愛しき結末を」
夕日と手に取ったリンゴを掲げて照らし合わせるシリアス。
その目に映るのは世界への愛か。それとも――
シリアスはそのリンゴを―――齧る―――
「勝手に食ってんじゃねぇええあああ!!」
シリアスの喉に手刀!!シリアスが死んだ!!
人様の食い物に手を付けるとはいい度胸だ。
このメイドのメイ――許さねえ。
とはいえ、食われたリンゴを持ち帰って食卓に出すわけにもいかず
メイドのメイはしぶしぶ
「ちッ、そのリンゴはくれてやる。好きにしろ」
シリアスの口にリンゴをねじ込んだまるごと。
白目をむいて口いっぱいのリンゴにピクリとも動かないシリアス。
「やだもうこんな時間!?魔王しゃまがお腹を空かせて待っているわ!
急いで帰って夕飯の支度をしないと!!」
先ほどの悪寒はどこへやら。
メイドのメイはいそいそ魔王城へ向かう。
――しかしこの時、混沌は確かに胎動していたのだ。
真っ赤に染まる沈む夕日――
その赤く丸い――夕日であるはずのソレが一瞬
――瞬きをした――
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