なにがくっころだッ!!

『くぅ~、殺してください~って、言えって言ってんだメスゴミぃ』


自称魔王ハンターマオの脳裏をよぎる言葉

それは魔王の執事セバスチュンに浴びせられた言葉

彼女の汚点にして恥辱


「おのれぇえ…魔王セバスチュンんん!!

 なにがくっころだッ!!」


勢いよく剣をふるうマオ。

目の前の大木がめぎめぎ音を立てて切り倒された。


彼女は執事にセバスチュンが魔王と勘違いしたまま

魔王討伐の修行に精を出していた。


「…私は、天才なんだぞッ!!」


天才だった。

自分で言っちゃうくらい天才だった。


確かに執事の呪文を初見でかわしたのはなるほど天才の所業か。

事実、マオの戦闘能力はかなり高い。

冒険者ギルドに所属している低ランク~中堅所の物では歯が立たないだろう。

上級と呼ばれる冒険者でも苦戦するかもしれない。

しかし、セバスチュンには傷の一つも付けることができなかった。


「武器がいけない武器が!!あの時、違う武器であれば勝てた!!」


武器のせいで負けた天才。ほんとにぃ?

さっそくマオは王都に買い物に行く。

店は行きつけの武器屋だ。

彼女の武器はそこでオーダーメイドで頼んでいる。

支払いは出世払いで。


――カランカラン――


店の扉を開くとベルが鳴る。

店内には武器屋の親父と男が話をしていた。


「 さ っ さ と メ ガ ネ を 出 せ 」


というか魔王の執事だった。


「!!!!」


とっさに商品棚の陰に隠れるマオ。

物陰から二人の様子をうかがう。


(まさかこんなところで魔王に再会するとはな…!

 人間社会に紛れて何を企んでいる…?しかも武器屋で…メガネ?何の話だ――

 まッ、まさかッ!?)



『おい、聞こえなかったのか?メガネはできたかと聞いている』

『はい魔王様。お望みのものは完成しております』


魔王の問いかけに悪笑いで答える武器屋の店主。

カウンターテーブルにごとりと歪な剣を置く。


『どうぞ魔王様…魔剣【メイガス・ネビュラ】でございます…』


魔剣メイガス・ネビュラ…

古の昔、神と魔人が繰り広げた破神戦争で用いられた邪剣。

通称…メガネ――


そう、武器屋は魔王と繋がっていたのだ。

木を隠すなら森の中…

まさか人間社会に魔王が堂々と出入りしているなどとだれも思うまい。


置かれた剣を手に取り眺める魔王。


『おお…この溢れん邪気こそ魔剣メイガス・ネビュラ!素晴らしい』

『光栄でございます魔王様』


一体古の魔剣をどうやって精製したのか。


『その魔剣には人間の魂がふんだんに使われております…。

 魔王様がその生成方法を教えてくださったおかげで

 私は魔剣をこの手で作るという夢を叶える事ができました。

 魔王様には感謝してもしきれません…。

 まあ、膨大な人間を秘密裏に殺すのは骨が折れましたがねぇ』


魔剣の材料は人間の魂。

そう、武器屋は訪れる客を秘密裏に殺していたのだ。

その数は何百、いや何千?それ以上かもしれない。

しかし、魔王の魔力を分け与えられた武器屋ならできないことはなかった。


人間の欲望につけこみ思うがままに操る魔王…。


『ククク…いい顔をしているぞ人間。

 魔剣を完成させた褒美に我が魔王軍に加えてやろう』

『なんともったいないお言葉!』


これからも武器屋は次の魔剣を作っていくことだろう。

今日も魔剣の材料を求めて店の扉が口を開けているのだから――




という天才が考えを巡らせている間に

実際の武器屋と執事のやり取りがこちら。


「だ・か・ら! うちはめがね屋じゃねえって言ってんだろ!!」


武器屋の店主がキレる。

魔王の執事もキレる。


「頭の悪い人間だ。なければ作ればいいだけの話だろうが」

「それをメガネ屋に言えって言ってんの!」

「お前がメガネ屋だろうが阿呆」

「あほはお前じゃ!!何度言わせんの何回目のやり取りなんだコレ!!」


執事は壊されたメガネを買い替えるために

クソ悪い視力のまま、また間違えて武器屋に入店。

いつになったらメガネ屋にたどり着くのか。


「もういい時間の無駄だ」

(…ほっ…やっと帰るか、さっさと消えろめんどくせえ)

「さっさとメガネを出せ」

「なんで!?」


無限ループに突入していた収集つかねえぞこれ。


「あ、あの!」


そんな二人のやり取りを見かねたのか

おさげのメガネ女子が執事に声をかける。


「うち、メガネ屋をやっているんです。

 メガネを探しているんですよね?

 うちの店に来ませんか?」

「この俺を歩かせるというのか?

 お前がメガネを持ってこい」

「あの、うちの店いっぱいメガネを置いてるので

 来てもらった方が試着しながら

 お気に入りのメガネがきっと見つかると思います!」

「ほう」


そんなに豊富な種類のメガネがおいてある店なのか。

メガネとはてっきり一種類だけかと思っていたが――


「小娘。いいだろう、案内しろ」

「はい!」


メガネ屋の娘と退店する執事。

よかったあ、やっとめんどくせえ客が消えたよ。


「随分景気がよさそうじゃないか武器屋」


物陰からスっと現れた魔王ハンターマオ。


「なんだマオ。やっとツケを払いに来たのか?」

「くくく…のんきな奴だ。先ほどの会話をこの私が聞いていたというのに」


ああ、さっきのメガネ出せ野郎か。まったく迷惑な話だよ。


「魔剣メイガス・ネビュラ…。

 まさかお前が魔界の住人とつながっていたとはな」


「 は ? 」


魔剣?めいが何だって?急に何言いだすんだコイツ。


「とぼけても無駄だ。

 魔王とつながっていた以上この場で切り殺してもいいのだぞ?

 だがあえてそうしない。魔剣メイガス・ネビュラに興味がわいた。

 精々魔剣製作に専念するといい。

 お前を殺すのはその後にしてやろう…」


ほんと何言ってんだコイツは?

はは~ん。さては金がなくてまってくれといいたいんだな貧乏娘が。

ったく、しゃ~ねぇえなあ。


「素直じゃねえなおめえは。いいぜ、待ってやるよ」

「ふん、あっさり認めるんだな。

 まあいい。これは口止め料としてもらっていくぞ」


そういうと店の剣を一振り手に持ち退店する。


――カランカラン――



いやカランカランじゃねえよなんだ口止め料って

 


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