くっころ喫茶

「…くっ…ころせ…!!」


騎士の格好をした女性店員が

オムライスにケチャップでそう書く。

おなじみの呪文を唱えながら。


「くぅ~!くっころ喫茶はいつ来てもくっころ~!」


男性客がすごいテンション上がっている。

そのままオムライスにがっついていた。


ここは王都に存在する通称くっころ喫茶。

もはや説明は不要。

そう。くっころを嗜む紳士淑女が集う社交場。


「…くっ…いらっしゃいませ…!」


客が入ると目線を斜め下に向けて、下唇をかみながら

実に屈しないぞという態度で出迎える店員。


「…くっ…注文しろ…!」


いちいち「くっ」っていう。

それがこの店のルールだ。

お触り厳禁。


一部のコアなファンが集うこの店は昼夜問わず繁盛している。

知る人ぞ知る名店なのだ。


「…くっ…お水をどうぞ…!」


その店に、やたらと前髪の長い女性店員が働いている。

というか魔王の配下のメイドのメイだった。

普通にバイトしてた。


(これも愛する魔王しゃまのため…!)


今の魔王軍は深刻な資金不足。

それを陰で支えているメイドのメイ。

少しでも賃金を稼ごうと奮闘していた。


(そして理想のくっころをここで習得し魔王しゃまにお見せしてそのままぐへへ)


むしろこっちがメインだった。

少しずつくっころに磨きがかかるメイドのメイ。


「あ、あの…メイさん」


後輩店員がおどおどしながらメイドのメイに話しかける。


「どしたの?」

「…その…あそこのテーブルのお客様がどうも苦手で…」


よくある話だ。

癖の強い客なんてよく来るのがこの店の特徴でもある。

中にはくっころにリアルさを持たせるとかで

店員の女の子の服を破り始める客もいたが

そんな客はおかえりいただいた。闇に。


「任せなさい。んもう、しょうがないわね~」

「メイさん…!ありがとうございます…!」


どや顔で先輩風を吹かすメイドのメイ。

自ら面倒な客の接客を名乗り出る。

事実メイドのメイの接客術は目を見張るものがあり

厄介な客もすぐに解決してくれる。闇が。


ツカツカとヒールを鳴らしてめんどくせえ客のテーブルに近づくメイドのメイ。

何が面倒なのかまず確かめようというのだ。


「…くっ…要件を言え…!」


いちいち「くっ」って言いながら客に話しかけると

客が眉間にしわを寄せて不機嫌そうに答えた。


「 さ っ さ と メ ガ ネ を 出 せ 」


というか魔王の配下の執事だった。


(なんでこいつがここにいるのよクソ割れメガネぇええええあああ!!)


マジでめんどくさい客だった。いや客なのか?


執事は先日、家賃を取り立てに来た老婆にメガネをぶち壊されて

新しいメガネを買いに王都まで来ていたのだ。

しっかし、執事はメガネがないとほんと何も見えてないので

メガネ屋に入ったつもりで、くっころ喫茶に入店していたなんで?


「聞こえなかったのかノブタ。

 メガネをさっさと持ってこいと言っているんだ。

 食事のご注文?お持ち帰りはどうするか?

 馬鹿か貴様は。ここはめがね屋だろうが」


馬 鹿 は 貴 様 だ 。

しかし幸いメイドのメイとは気づいていない様子。

こんなところで働いてるとばれたら絶対馬鹿にされる。絶対。

ここは丁重に帰ってもらうしかない…。


「あのぉ、お客様ぁ~?ここは喫茶店でしてぇ~…」

「ここはめがね屋だって言ってんだろボケが」


めんッどくっせえなまじで!!

ボケた老人かてめえは!!

こ こ は く っ こ ろ 喫 茶 な の !!

眼球抉ってやろうか!?


と、いつもならそんな声が出てもおかしくないメイドのメイ。

こらえるのよここは。

こうなったら――


「お、お待たせして申し訳ありませんでした!

 メガネですね?ええ、ぴったりの物がご用意できましたので

 ご案内いたします!どうぞこちらへ――」


こ の ま ま メ ガ ネ 屋 ま で 連 れ て い く 作 戦

我ながら名案だ。

これでクソ割れメガネを店から自然に追い出すことができる!


「客を立たせる気か貴様は。

 メガネをもってこいと言ったのだ俺は。

 何度も言わせるな」


めッッんどッくッッせぇええなマジでッ!!!

なんなのコイツ!?こっちが下手に出てりゃ調子に乗りやがって!!

視力クソザコのくせによォオア!!!


「ん?貴様、やけに前髪長いな――

 !? てめえ、メイドのメイだな!?」


前 髪 は 見 え る の か よ !?

というか前髪で私を判断すんなや!!


「きさまァ…どこで遊んでるのかと思えばこんな人間どもの巣でぇえ!!」

「遊んでねえわ!!てめえこそメガネ買いに人里に来てるじゃねえか!!」


ああもう収集つかんわこれ。

そこにお客様おひとりご案内~


「——ん?セバスチュンにメイドのメイ。

 お前たちここで何してるんだ?」


というか魔王様だった。

いや、あなたも何してんですか。


「フッ…くっころ喫茶なるものが王都に存在すると聞いてきたのだ」


くっころ情報に敏感な魔王様。流石です。

すると、騎士コスプレ姿のメイドのメイを見て


「メイドのメイ――おまえ――」

「んひゃぁあ!?」


ま、魔王しゃまが私の全身をなめまわすようにみていりゅぅうう!!

しょんなに見ないでぇえ!こんなはしたない私をいやあむしろもっとみてええ!!


「似合っているぞ」

「ぴゃい!」


褒められちゃった♡

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