恋するくっころ姫

ここは、とある王都の大きなお城。

そこに一人のお姫様がいました。


彼女は小鳥のさえずりを聞きながら

机に向かいペンを走らせています。

きっとお勉強でもしているのでしょう。

朝からずっと分厚い本を開きながら机に向かっています。

流石は一国の姫君ですね。


おや――


さっきまで忙しく動いていた手が止まります。

一体どうしたというのでしょう。

ペンを置き、窓から見える青空を見て


「———はぁ――」


あらあら、ため息。

何か気になることでもあるのかしら。


(…あのとき私を助けてくれた高貴なお人はいったい…)


――なるほど。

どうやら姫君はあのときの魔王のことが気になる様子。

名前も聞かずに消えてしまったあの人に想いを馳せていたのね。


「………」


あらあらまあまあ。

目を閉じて胸に手を当てて

自分の心臓の鼓動でも聞いているのかしら?

それとも気付いたのかしら。それが――


「アンジェちゃぁあん。入ってもいいかな~?」


姫君の部屋をノックとともに随分野太い猫なで声が。


「あっ、お父様?どうぞ入ってくださいな」


慌てて身なりを整える姫様。

開いた扉から王冠を被った大男が入ってきます。

このお方こそこの国の王様。姫君の父。

度重なる魔界の住人からの侵略を退け

人間の世に平和をもたらした偉大なる英雄。


「お勉強はどうかな~?パパ、様子を見に来たぞ~」

「んふふ、お父様ったら。私がお勉強に集中してないとでも?」

「そ~んなことないでちゅよ~!パパは~、アンジェちゃんに会いたくて~」

「んもう、お父様の甘えんぼさん」


我が子にべたべたする一国の王様。

まあまあ。とても世界を守った英雄の姿とは思えません。

しかし、流石は父親。

なにやら娘の元気がないことを察した国王様。


「どうしたアンジェ?どこか痛むのか?」

「えっ? いえ、私はそんな…」

「わしの目は誤魔化せんぞ。言ってみなさい。

 ああ!もしや先日の盗賊どもに襲われた事が心の傷に!?

 安心せよ。そやつらは必ず見つけ出し

 この手で首をはねてやるからな」


「…は、はい…」


目が血走る王様。よほど我が子を傷つけたことが許せないのでしょう。

国王様は有言実行のお方。容赦はありません。

あまりの剣幕に姫様もドン引きです。


「あとアンジェの警護を怠った騎士も

 明日、我が手で首を跳ね飛ばす」


たとえ自国の騎士でも容赦はありません。


「や、やめてお父様!それは私が黙って城を抜け出した私が悪いのです!

 どうか、警護の騎士にそのようなひどいことはやめてください!」

「おっけ~」


しかし娘には激甘なのでした。


「では何が気がかりなのだ?」

「それは――」


胸に手を添え、目をそらし

もじもじと言うか言うまいか身をよじる姫。言っちゃえ。


「お父様…私……恋を…してしまったようなのです…」

「———恋!!!???」


恋!?こい!?濃い!?故意!?鯉!?来い!?請い!?KOI!?こ―――


愛娘が恋をした――

なんて素敵なことなのでしょう!


しかし王様は呆然と窓の外を見たまま動きません。

きっと頭の中は「恋」という文字を

別の意味であることを願い変換していることでしょう。


すると――


王様は深呼吸。

そして満面の笑み。


「アンジェ。恋、したんだね?」

「…はい…」


もじもじと指先をなんかこねこねする姫。


「もしかして、先日助けてくれたという――」

「はい。とても高貴で…凛として…異国の王を思わせる威厳さえ感じました」

「王族なのかね?」

「わかりません。最初はこの国の貴族の方かと思いました。

 もう一人のお付きの男性は執事でした」

「なるほど。で、その助けてくれた貴族とやらの容姿は?」

「女性のような長い黒髪…吸い込まれそうな赤い瞳はまるでルビーのように輝いて

 しかし、その眼差しは私をしっかりと見据えていて

 一国の姫が無防備に外出したことを叱ってくださいました…」

「叱った!?」


お父さんも叱ったことないのに!!


「そ、そんな男の何がいいというのかい?」

「私もそのように叱られたのは初めてのことで驚きました…。

 でも、その…その時、私の胸が…心が…今まで感じたこのとの無い鼓動を…!」


「叱られて…ときめいた…ということなのか…?」


叱られて悦ぶ?

わしの愛娘が何かに目覚めてしまったとでもいうのかァア!?


「お父様?」


頭を抱える父を案じた姫が声をかけています。


「な、何でもないぞよ。わしの可愛いアンジェ」


そういうと国王様は姫の部屋を出ていきます。


「あの、お父様?」

「安心しなさいアンジェ。パパが何とかしてあげよう」

「?」


首をかしげる姫に、にっこり笑顔で扉を閉める国王様。

あら?そのまま大広間へ向かいます。

そこには国王の右腕の大臣が。


「おやガイザ様。そのような笑みを浮かべてよいことでも――」

「大臣よ。明日、国中の貴族を集めよ」

「これはこれは、なにか祝い事で?」

「ああ、そこで黒長髪の赤眼の男を探すのだ」

「ほうほう、何故そのようなことを?」


「 ぶ ち 殺 す た め だ 」


あら大変♡

 



「うおおお!?」


突然、唸り声をあげる魔王様。


「いかがなさいましたか?」


執事が声をかけるが


「魔王様はあっちよクソメガネ」


メイドに声をかけていたよくっそメガネこわれて何も見えねえ。


「魔王様、どうされました?」


柱に声をかけてるクソメガネ。もう見てられないわ。


「魔王しゃま、どうされたのです?」


メイドに聞かれて魔王は


「何か今背中がぞわぞわって…」


あ、魔王しゃま背中にゴキブリが。えい♡

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