姫騎士くっころ…!?

女性の悲鳴がこだまする


そんな悲鳴が似合わないここは綺麗な花畑

王都の近くにある森の中に

透き通る泉とそれを囲む色とりどりの花


ドレスを身にまとう女性の周りに

厳つい男三人が取り囲む。


「きゃぁああん、だなんてくぁうわうぃ~」

「お嬢ちゃん貴族かなぁ~?駄目じゃないかこんなところうろついて~」

「お外はねぇ、こわ~い人がいるってお家の人に教わらなかったのかな~?」


震える女性を取り囲み下品な笑いを浮かべる男達。

その手には刃物が。


彼女は王国の姫。

この場所は彼女のお気に入りで

たびたび城を抜け出しては遊びに来ていたのだ。

この日は護衛も付けずに――


「早いとこさらっちまおうぜ?」

「焦ることはねえよ。こんな場所に人なんざ来ねえさ」

「それもそうだな。げひひ、じゃあ早速~」


男が持っていたナイフで姫のドレスを引き裂いていく。


「や、やめてください!!」

「やめてくださいだってよお!」

「これから何されるかわかってんだろお嬢ちゃん~?」


涙目の姫に男たちは何のためらいもなく手を伸ばす。

もはや成す術はない。

姫はあきらめて目を閉じる…。

屈強な男どもにひ弱な姫はどうあがいても勝てないのだ――



突然の突風。

一瞬の出来事で何が起こったかわからないが

男どもはさっきまで姫を襲おうとしていたはずなのに

今は――空を飛んでいた。


「「「あ”え”??」」」


男三人は仲良く空の彼方へ消えていった。

姫は何が起きたのか理解できず

仰向けのまま青空を見つめたままだった。


ゆっくり体を起こし

辺りを見渡す――


宙を舞う花びら

青空を彩る花たちの向こうに

男二人が立っていた。


「花粉ヤバいなここ」

「魔王様、花粉症なんですからこんなところに来てはいけませんとあれほど」


魔王がいた。

魔王は花粉症でちょっと鼻がムズムズしたもので

盛大にくしゃみをしたら花もろとも男どももついでに吹き飛ばしてしまった。


(…あのお方が…私を助けてくれたの…?)


姫は思った。

しかし彼女は彼を魔王と知らない。

だが、礼を言わずにはいられなかった。


「…あのっ…!」


「ん?」

「あ”?」


魔王に駆け寄り声をかける姫。

姫に全然気づいてなかった魔王と

相変わらず犬の糞を踏んでキレているような態度で睨む執事。


「…あの…先ほどは助けてくれて…ありがとうございます」

「え?」

「はぁ”?」


ぺこりと礼をする姫に

何が何だかわからない二人。


(…セバスチュン、知り合いか?)

(いえ、こんなゴミ知りえようがございません)


ひそひそ話す魔王と執事。

姫は首をかしげて問いかける。


「…あの…?」


いまいち状況がわかってない魔王。しかし――


「!!!!」


魔王の目つきが――変わる。


「貴様、姫騎士――だな?」

「はい?」


見たことある…見たことあるぞ我がバイブルで!!

そう、姫騎士。

くっころランキングで上位に存在する人間のジョブだ!!

見たところヒラヒラしたドレスを着ているようだが

我が目は誤魔化せんぞ!!

着込んでいるな!?その下に鎧を!!


――運がいい。実に運がいい――


さて、どうくっころってやろうか。

まずは力の差を見せつける必要がある。

問題はこの姫騎士が気丈なタイプかどうかだ。

腰を抜かしてあっさり降参してしまうと困る。

で、あるならば――


「剣を抜け、人の姫よ」

「えっ?」


先行はくれてやる。

好きなだけ我を切り刻むといい。


『勝てる、勝てるぞ!このまま全力で押し切る!!』


そう思うがいい。そのくらいの希望は持たせんとな。

そして恐れろ。

その刃が全く我を傷つけられないことに。


『そんな…!?効いて…ない…!?』


そう絶望する顔が思い浮かぶわ!

さあ、さっさと剣を取るがいい!!


「…剣、でしょうか。ごめんなさい、私持ってなくて…」


まさかの拳!!

拳闘の姫騎士とはさらに良いぞ!!

新たな展開に血沸き肉躍るわ!!


勝手にテンション上げる魔王。一方、姫は


(このお方はどうして剣を抜けとおっしゃるのかしら…)


助けてくれた恩人に突然剣を抜けと言われ困惑していた。


(…ま、まさか…!こう仰りたいの…!?)



『姫君よ。どうして剣も持たずこんな人気のない場所にいる』

『そ、それは…城を抜け出して遊びに来てしまって…』


やれやれとため息をつく男


『危険すぎる。あなたは自分を一国の姫だという事を自覚した方がいい』

『…は、はい…』



(世間知らずな私の為に…!)


自分の軽はずみな行動を恥じる姫。

姫は国王の一人娘。

国王は姫を溺愛しており今まで怒られたことのない生活を送ってきた。

そのため城の外に出ることも禁じられているのだが

それを破ってもまず怒られるという事がない。

これには王国騎士も手を焼いているのだが

代わりに王の目の前で注意でもしようものなら首を跳ね飛ばされてしまう。

しかし、目の前の紳士は注意する。

姫としての自覚を持て、と!


「私を想っての事だったのですね!ありがとうございます!」

「え」


なんか感謝される魔王。

ちょっと意味が分からないんだが。


(…魔王様)


執事が耳打ちをする。


(こいつ、鎧どころか武器も身に着けておりません。

 それどころか闘気も全く感じない。

 マジモノの戦闘力皆無な小動物です。)

(なにぃいいいいいいああああ!?)


姫 騎 士 じ ゃ な か っ た 。

姫騎士のくっころ…!?どころ、じゃ、ない…。


「帰るか」

「そうしましょう」


姫に背を向け帰ろうとする魔王。

今日の夕飯はサバの味噌煮だっけ?


「!! あの、お待ちになって!!」


姫が呼び止めようとしたその時――


「姫様ーッ!!」


後ろから王国騎士が走ってくる。


「こ、困ります姫!!

 あれほど外出されるときはお声をかけてほしいと申し上げましたのに!!

 ぁあああ!?姫様!?お召し物がズタズタに!?

 いいいいったい何が!?」


「これは先ほど盗賊に襲われて…」

「盗賊!?襲われた!?」


ガタガタ震えだす騎士。

もう首とんじゃう。


「でも、あのお方が助けてくれたのです!!」


魔王の方を振り向くと――


「? あのお方というと、どこでしょうか?」

「え――」


風に宙を舞う花びら。


魔王の姿は、もうなかった――


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