くっころを召し上がれ❤

「まさかとは思うが」


許可もなく厨房に入ってくるくせ毛メガネ。


そして馴れ馴れしくこのメイドのメイに話しかけてくる。


「今日の夕食――コロッケじゃないだろうな」

「うるせえんだよ毛ェエ!!てめえは草でも食ってろって言ってんだろあ!!」


正気かこのメイド気は確かなのかこの前髪。


それは遡ること昨日の晩のこと――




「魔王しゃまあ!お夕食ができましたぁあん!」


魔王の前に皿に盛られた料理が運ばれる――


「おいちょっとまて前髪!!何だこの臭いは!?」


「あ?てめーはこれよ」


ずだんと茶碗を乱暴に置くメイド。

茶碗には盛られたコメに割りばしが垂直に突き刺さった状態で俺の前に出される。

コメ干からびてるじゃねえか。


「草じゃないだけありがたく思いなさいよ」

「これのどこにありがたみを感じろというんだアバズレ」


自分の食い物ぐらい自分で用意するわ。

そんなことよりもだ。

問題は魔王様に出されたこの悪臭を放つ物体――


「これはなんだと聞いている」

「くっせえコロッケよ」

「おいてめえまさか――」

「略してくっころよ」


や り や が っ た 。

いくら魔王様がくっころに飢えているといってもこれはない。

食い物だぞ?ジャンルが違う。

まずなんだよこのくっせえ悪臭は。


「ぅフハハハハハ!!」


高笑いする魔王様。

ほら見たことか。

悪臭で魔王様も笑うしかないのだろう。


「くっせえコロッケ…略してくっころ!気に入った!!」


気に入っちゃった。


「あ…ありがとうごじゃいましゅ魔王しゃまぁああああん!!」


一瞬で溶け出すメイド。

しかし、前髪は溶けない。

それよりもだ。


「魔王様!こんな悪臭を放つ異物を食べるなどと!!腹を壊しますよこんなゴミ!」

「ァアあ!?ごみはてめーの毛のことだろうが毛玉ァア!!」


一瞬で元に戻るメイド。前髪が触手のようにうねうね動いてキモっ


「そうか?我には香ばしい香りに感じるのだが」


ご  冗  談  を  魔 王 様 。


「さっすが魔王しゃまぁあ!!このメイドのメイ、自慢のコロッケなのでしゅ!」


何が自慢だ冗談は前髪だけにしておけ。


「このコロッケには大量のニンニクがはいっているのれす魔王しゃま!」


最 悪 だ コ イ ツ 


俺はニンニクが大の超のつくほど嫌いだ。

まず食い物じゃない。においがもう無理。

あんなくっせえ物体を好んで食うやつの気が知れない。

という話を以前、魔王軍配下のヴァンパイアとしたのだが


『あれ慣れると結構いけるッスよ?』


とかぬかしていたな失せろ。

お前ニンニク駄目じゃなかったのかよ。

道理でニンニクくせえわけだ。


「そういえばあんたニンニク嫌いだっけ?クヒっ、ほら。くえよ」


う っ ぜ え な こ の メ イ ド ま じ で 。

俺が人狼で鼻が利く上にニンニク嫌いを知っててこの仕打ち

どうやらそのにやけ面をげちゃげちゃにしてほしいらしィナァア?


「こらメイドのメイ。セバスチュンをあまりいじるでない」

「あひィ!?申し訳ありましぇん魔王しゃまぁ…」


俺が変化する前にメイドを叱る魔王様。

命拾いしたな前髪——

あといちいち魔王様に話しかけられる度に蕩けるのやめろメイド気持ち悪い。


「なによりくっころを料理へ昇華させるとは流石よな」


「げへへ…お褒め頂きうれしいれすぅ…!」


げへへてお前涎ふけやコロッケにかかるだろ。


「…最近の魔王しゃまは理想のくっころに会えずに落ち込んでいるご様子でしたので

 せめて料理だけでも…くっころにしたいと思いまして…」

「…メイドのメイ…」


へー。お前そんな気遣いできたのか。くっころにしたいってなんだよ。

だがくっせえコロッケ。

そんなもので気を使ったと思ったら大間違いだぞ。


「ささ!魔王しゃま!くっころを召し上がれ❤」

「…ふ。我を心配してくれてうれしいぞ。

 さて、冷めないうちにいただくとしよう――」


魔王様がナイフでコロッケを切る。

あ、魔王様。ナイフとフォークの持ち手が逆です。


湯気を上げるコロッケの断面は――


「コロッケはニンニクのみ使っておりましゅ!イモは使ってましぇん!」


使えや。ニンニク100%かよ。

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