勇者のくっころが見たいのだ

魔王城に三人の人間が乗り込んできた。

それは人間の勇者パーティ

魔王を討伐せんと挑みに来たのだ。


「俺は勇者のアド!!」

「あたいは武闘家のレナ!」

「わしはサムライのリン!」


「「「魔王!いざ尋常に勝負ァア!!!」」」


「サンダー」


執事が雷呪文を唱えると魔王城に雷が落ちる。

衝撃で城の窓ガラスという窓ガラスが割れ

天井を突き破って落ちてきた雷で勇者パーティーは一瞬で全滅する。

ついでにメイドの前髪もなんかふわってなる。


「しつこいぞアドレナリン」


こいつらが魔王城に攻め込んでくるのはこれで何回目だ?

クソザコのくせに何度も挑んでくるその無謀だけは勇者と褒めてやろう。

つーかなんだそのパーティは。

勇者、武闘家、サムライってどんな脳筋パーティだ。

ヒーラーと魔法使いはどうしたバランス考えろバランス。


「ぐァ…!な、なぜだ…なぜ、勝てないィ…!」


黒焦げの勇者が起き上がる。しぶといな。


「…レベルは上げてきたのか」

「当たり前だッ!!俺たちの合計レベルは10だぞッ!!」


低いわ舐めてんのか。

しかもレベル合計かよ。三人でレベル10なの?


「この間、武闘家のレナがレベル4に!

 サムライのリンが5になったんだぞッ!!」


勇者のてめえが何一つ強くなってねーんだわ。

レベル上がってねーんだわ。

何してたのマジで。


「それになァ!回復呪文ぐらい俺は使えるんだよ!!

 仲間を復活させる回復呪文がなァア!!」

「ほお」


それは初耳だ。

復活呪文といえばヒーラーでもかなりのレベルがないと習得できないはず。

それをレベル1のお前が使えると?

なるほど、勇者の名は飾りでないという事か。


「みんな!!立て!立ち上がってくれェ!!

 こんなところで俺たちは終われないッ!!そうだろ!?

 村のみんなが待っているんだ!世界が平和を待っているんだ!!

 まだやれる!戦えるんだ俺たちは!!

 頼む二人とも!!立ち上がってくれぇえああ!!」


それ回復呪文じゃねえだろ。


「あたい達は…負けられない…!!」

「う…そうじゃな…こんな、ところで…!」


立ち上がる武闘家とサムライ。マジかよ。

いやだからもうそれ回復呪文じゃねえだろ気合じゃんもう。

それ以前にお前らレベル低すぎなんだわ。なんで魔王城きた?


だがまあ、今の魔王城は確かに手薄だ。

本来魔王城というのは行く手を阻む配下たちがエンカウントするのが常識。

しかし今は魔王様と俺、前髪しかいない。

これではエンカウントなしの玉座までストレスフリーに一直線。

あ、途中に宝箱なんてありませんよそんなもの。


我が魔王軍にも配下は大勢いた。

しかし、魔王様が長き昼寝について居る隙に

休暇と称して全員どこかに遊びに行った。

自由過ぎるだろ魔王軍。

で、今日まで誰も帰ってきていないいつまで遊んでんだ。


――もういい――


執事が片手をかざすと

その手が凄まじい音を立てて雷を帯び始める。


「——貴様らは、ここで消えろ」


執事がこぶしを握り締め

その力を一気に開放する――


「う、うわあああああああああああああああああああああああ!!」


目の前が真っ白になり悲鳴を上げる勇者――


「待てセバスチュン」


魔王の一言に、執事は力の行使を取りやめた。


「お目覚めでしたか魔王様」


「…魔王…!!」


少し仮眠をとっていた魔王。


その寝床は吸血鬼が棺桶で眠るように


――魔王は洋服ダンスから出てきた。


「おはよう」

「おはようございます」


洋服を収納する家具から魔王が出てくる。

その光景に勇者たちは――


「な、なんておぞましい…!!」

「邪気であたい、気絶しそう…!」

「…これが魔王…!なんたる殺気よ…!」


――めっちゃビビっていた。


もしも勇者パーティが民家でツボを割ったり勝手に箱を開けたり

アイテム漁りをしている真っ最中だとしよう。

町の中は安全。住民の視線はちょっと気になるがそれでも漁っていると――


[勇者は洋服ダンスを開けた!]


[魔王が現れた!]


それをこの魔王は体現したのだ。

つまり魔王はこう言っている。


――お前らごとき、いつでも消し飛ばせるのだ――


「くっそォオあ!俺たちなんていつでも殺せるってことかよ!?」

「だ、だめ…あたい、腰が抜けて…立ち上がれない…!」

「…力の差は歴然…!もはやこれまでか…!」


その畏怖は間違ってないんだが、なんか違う。


「セバスチュン、勇者を逃がしてやれ」


この勇者どもはいずれ魔王様を満足させるくっころを見せてくれるのだとか。

それまで仕留めず泳がせておきたいお考えだ。


「我は勇者のくっころが見たいのだ」

「かしこまりました」


魔王の言葉に応え、勇者に振り向く執事。


「よろこべ勇者ども。逃がしてやる」


執事が指を鳴らすと、まーた魔王城に雷が落ちる。


そしてまーた魔王城の窓ガラスが割れる。


衝撃で勇者たちが城の外、空の彼方へぶっとんでいった。


「ところでセバスチュン、メイドのメイはどうした」


「メイドなら今頃ぶち切れながら割れた窓ガラスの掃除をしています」


後でまた前髪がうるさいんだろうな面倒くさい。

というか前々から気になっていたことが――


「なぜ魔王様は洋服ダンスの中で寝るのです?」


「ふふ、それはだなセバスチュン」


どや顔で魔王様が答える。


「暗くて狭いところが好きだからだ」


棺桶でもいいのでは――?


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