エルフのくっころじゃダメなんですか

執事がそう言ったその瞬間、魔王城に雷が落ちる

魔王城の窓という窓が砕け散り

ついでに城に乗り込もうとしていた勇者パーティーが衝撃で吹き飛ぶ。

メイドの前髪もなんかふわってなった。


「その手があったかァアアアアアアアア!?」


魔王は玉座から滑り落ちながら白目をむく。

そんなに重要なこと?


今までという事だけにとらわれていた。

視野が狭まっていたのだ!

くっころに制限などないはずなのに!!


「…セバスチュンよ。お前もくっころの何たるかがわかってきたようだな」


「お褒めにあずかり光栄です」


いや、わかりませんけどね。


メイドの俺に対する視線がどぎつい。

血走ってんだよ目がさあ。

自分も褒められたかったのにこの鳥頭がとか思ってんだろ。

いいから前髪きれや。


「エルフといえばそのプライドの高さと

 縄張り意識の塊で好戦的な種族です。

 森を守るだの誇りがどうだの言って襲ってくる連中ですよ。

 一度森を焼き払い、使えそうなエルフは捕まえて調教し

 奴隷にでもしたほうが良いのではないかと」


さらっとひどいこと言う執事。

ため息をつくメイド。


「あんたって見かけによらず容赦ないわよね」

「?」


は?じゃねえよ。


で、でもでも…エルフを捕まえて魔王しゃまが調教するだなんてぇ!

いけない、いけないわ!魔王しゃまがいけない趣味に目覚めちゃったらどうしよ…

きっと夜な夜ないやしいメスエルフの汚い喘ぎ声が城中に響くんだわ…!

そんなのダメ!絶対ダメ!!魔王しゃまは私の魔王しゃまなんだから…!!


「私を調教してくだしゃい魔王しゃまァアアアアアアアア!!」


「お前マジで何言ってんの?」


いきなり叫びだすメイドに引く執事。

ああまた前髪振り回してるよコイツは。


「はァうァア!?」


今度は魔王様が叫ぶ。

いかがされたというのか。


顎に手を当てて何やら考え込む魔王様。


「まずい…まずいぞ…エルフのくっころは…!!」



魔王様、妄想タイム入ります――





燃え盛る森の集落


先ほどまで美しかった森の新緑は


今や紅蓮の業火に包まれ見る影もない。


それを力なく見つめるエルフの女


地べたにへたり込み項垂れる


着ている衣服は魔王の攻撃で消し飛び


武器は砕かれ無防備――


エルフの女の命は今


目の前の魔王の手に握られている。


『惨めだな』


魔王の言葉に女は憤怒の眼差しで睨み返す


――いいぞ、その眼だ――


魔王は待っているのだ。


屈服したエルフが放つ


――次の言葉を――


『お前の命を差し出せば仲間は助けてやろう』


『!!』


とどめの一言。


びくんとエルフは反応する。


この絶望的な状況ではその言葉を――条件を呑むほかない。


その表情がなんとも悔しそうで惨めに歪んで


『言ってみろ。お前の言葉で』


魔王を睨みながら顔を上げるエルフ


良い表情だ、実に良い。


女は震える唇をゆっくり開けて


その言葉を発する――


魔王は――狂喜の高笑いを腹の底から――


『さっさと、ころしなさいよね!!』



『さっさところせって言ってんの!聞こえないの!?』


あえ


『別に本当にころしてほしいわけじゃないんだからね!!』


ぷえ


『勘違い…しないでよねッ!!』






「エルフだとじゃなくてになるぞ…」



魔王様の中でエルフはツンデレだった。

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