生保大戦1
「人員整理で、会社を首になりまして・・・それでも何とか、短期のバイトとかやって、しのいできたんですが・・・」
このおっさん、体がでかい。
おっさんの体がでかいので、小さくて、狭くて、古い面接室の中では、よけいにでかく見える。
小さな面接室の中で、体の大きなおっさんと二人きり。
体が大きいといっても、横にではなく、縦にだ。
しかし、多分、肉体労働をしていたのであろう、ひょろ長くはない。
本来なら、個室に男性と二人きりとか、どうかと思うが、この部屋には緊急ブザーがあるので、安心らしい。
私は若干不安なのだが、安心を強調された。
一応、生活保護の担当は初心者なのだ。
もっと、気を使ってほしい。
優しくしてほしい。
でも、どうしても新規採用の子たちに、みんなの優しさは向かっていく。
いいな1係の遊子ちゃん。
男共に丁寧に仕事を教えてもらってる。
うーん、僻んでも、ここは仕方がない。
人生の先輩として、頑張らねばならない。
「そうですか、短期のアルバイトで食いつないできたと」
「はい」
では、そのまま、食いつないでいけばよいのではないかと指摘したくなるが、ぐっとこらえる。
「えっと、年齢は?」
「58歳です」
あと2年で年金じゃん。
「そうですか・・・前の会社で、厚生年金に入ってれば、あと2年で年金がもらえるかもしれませんね」
アドバイスするのは大事だ。
「ええ、確認しましたが、来年の3月から年金が支給されるそうです」
「あら、よかったですね!」
よし、それならば、生活保護などいらないだろう。
来年の3月までなんとかがんばるようにセリフを考えるが、先手を打たれた。
「家内が癌で・・・手術が・・・」
あ、これ、だめなやつだ。
「そうですか・・・とりあえず、家族構成を教えてもらっていいですか?」
面接の時に使う紙を差し出す。
生活保護は家族単位。
その家に住む全ての人を1つの単位として扱う。
だって、そうしないと、家族の中で年金の少ないおじいちゃん1人だけ、生活保護になってしまう。
でかい男が、ぶっとい手で鉛筆を握りしめて、自分と奥さんの名前や生年月日を記載する。
「奥さんは、恵子さんですね・・・」
「・・・はい」
よし、決めたぞ、こいつの事は加藤と呼ぼう。
加藤は帝都から、恵子と落ちのびた。
きっと、これは、その後の物語だ。
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