生活保護キッズ・9

「うーん、まずいわね・・・」


七緒主査が、美しくメガネをくいッとやりながらつぶやく。

・・・美しい。

あーゆーふうに年を取りたいものだ。

私には無理かな。

せめて鎖メガネほしい・・・

普通に売ってるのかな?

目がよくてメガネに縁のない私はよくわからない。

あ、しまった、仕事だ、仕事。


「・・・多分ですけど、この2人、不登校じゃないです。母親のせいで、昼夜逆転の生活が続いていて、朝、起きられないだけです。学校に給食を食べに行っているようですし」

「給食が栄養源か・・・ま、よくある話ですけどね・・・」


アニがつぶやく。

よくある話なのか?

その事実に唖然としつつ、慄然とする。

狭い部屋の中で沈黙が広がる。


「・・・あの、とりあえず、病院に連れて行けばいいですかね?」

「そうね、そこで、医師の診断書をもって、入院させるしかないわね」

「・・・こ、子供たちは、どうなるんですか?」


アニと七緒主査が顔を見合わせると、鏡写しのように、うなずく。


「大洋学園に引き取ってもらう」

「空きがあるか、確認しますね?」


アニが、すっと席を立って部屋から出ていく。

仕事はえぇ・・・


「・・・大洋学園とは、何ですか?」


何もわからない私は、恥を忍んで七緒主査に尋ねる。


「あぁ・・・そういう子供を引き取る寮みたいな施設があるのよ。市内にはもう一つ、問題があって引き離す系の南風学院がある。ここは乳児院があるから、小さい時からってケースがほとんど。途中入所なら、太陽学園ね」

「なるほど」

「ま、とりあえずは、どうやって医者に連れていくかよね・・・」

「そうですよね、あなた、頭おかしいから、精神病院を受診しなさいって言えないですもんね・・・」


ガチャリとアニが入ってくる。


「大洋学園は大丈夫です」

「そっか・・・藤伊さん、明日、時間ある?」


わかってる。いくら美人の七緒主査からのセリフだからといって、お食事のお誘いとかでないことはわかってる。でも美人から言われると、いくら女性といえども、どきどきするのだ。


「だ、大丈夫です」


私、顔、赤くないですかね?


「じゃ、明日、とりあえず言ってみようか?」

「はひ、車出しますか?」


やべ、噛んだ。


「わっ! 本当!? 嬉しい」


満面の笑顔の七緒主査は、はやり美しい。


「うちの課、人数多いのに、車1台しかないから、とっても助かるわ!」


いえいえ、ここまでしていただいて、車くらい出しますよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る