生活保護・キッズ4
「あ、どうも、校長のヨーダです」
そう、既に脳内変換済みだ。
部屋に入ってきた瞬間に、決めたのだ。
小柄なところもグッジョブだ。
残念なのが着ている服だ。
スーツではなく、ローブを着ればいいのに。
校長はヨーダと、こっそり脳内で呼ぶことにする。
「ええ、不登校というわけではないんですが、連絡もなく休むというか、昼前に来て、給食は食べるんですが・・・ケースワーカーの方だから言いますけど、実は、お母さんと、全く話ができてないんです」
校長室のかつて豪華だったようなソファーにちょこんと腰かけてしゃべる。
中に人間が入っているとは思えない。
「・・・そうなんですか・・・家から出てきませんよね」
「そうなんですよ、子供たちに聞くと、寝てるっていうんですけどね・・・勝手に家に上がり込むこともできないですし・・・めったに玄関口まで来てくれないんですよ」
ヨーダが困った顔をする。
よくできている。
「そうですか・・・でも、昼ご飯は給食を食べてると聞いて、ちょっと安心しました。給食費は収めているんですか・・・?」
「給食費は、校長払いにしてもらってるので大丈夫です」
「・・・そ、そうでしたね」
笑ってごまかした。
実は「そうでした」ではない。私はわかっていなかった。勉強不足だった。
事務所に帰って調べたのだが、給食費は、給食費として学校が請求した金額と同じ金額が、生活保護費に加算されて支給される。
生活保護費は扶助費に分類されており、扶助費は本来的には、扶助を受ける本人に支払うのが基本。
ここで、「扶助を受ける本人」とは母親のこと。
母親に給食費を支払う責任があるからだ。
しかし、子供の給食費ために、わざわざ加算して支給しているのに、そのお金を使い込む親がいる。
まぁ、使い込むのではなくても、計画的な消費ができない親もいる。
だから、その部分を、本人の承諾を持って、直接、学校に支払う制度がある。
これがうちの市で「学校長払い」と言われる制度だ。
もちろん給食費なので、年度終わりに〆る。
毎月定額だけ支給して、学校と調整して、最後に帳尻を合わせるまでワンセット。
この制度により、親の能力や屑さ如何にかかわらず、子供に給食を食べさせることができる。
時折、ニュース等で、学校の先生が、何度も何度も督促をしたり、場合によっては、校長先生が身銭を切ることもあると聞くが、この制度を利用すれば、少なくともうちの市では、それはない。
つまり、学校側はこの制度を活用する限り、生活保護の家庭の給食費は、とりっぱぐれることがない。
学校と子供と福祉事務所がWIN・WIN・WINの制度だ。
しかし、給食費の袋を配られないという1点において、それを嫌がる親が存在する。
つまり、給食費の袋が配られないとうことは、生活保護ということがバレるということだ。
それでいじめにあったらどうするんだと言われる。
そして、親に給食費を払うと、給食費を学校に払わずに、学校から苦情がくる。
ケースワーカーは大変だ。
「あの、参観日とかは・・・」
「・・・来ないですね」
「そうですか・・・ありがとうございます」
「いえいえ、ケースワーカーの方が見えられると聞いたので、何ごとかと思いましたが、よろしければ、子供たちのために、今後も生活保護のご家庭には協力していきたいと思いますがいかがでしょうか」
「!? もちろんです。微力ですが、がんばります」
「そうですか! こちらも助かります。実は、教師として、家庭の事情にまでなかなか入り込めなくて・・・でも、子供たちのことを考えると・・・」
「わ、わかります!」
ヨーダ校長と友好関係を結んだ。
ついでに、フォースの極意も教えてほしい。
いずれR2Ⅾ2やエックスウイングを宙に浮かせることもできよう。
学校と良い関係を結ぶことはとてもいいことではないのだろうか。
この時は、この校長から「うちの学校を消滅させるつもりですか?」などと言われるとは、露にも思っていなかった。
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