生活保護者は幸せな老後の夢を見るか 第7話
イジドアは、映画「ブレードランナー」の原作である「アンドロイドは電気羊の夢をみるか」に出てくる人物。
主人公でもなく、アンドロイドでもない。
ディックの作品はほとんど読んだつもりだが、私の解釈として、彼の物語の根底にあるのは「偽物」と「本物」なのではないかと思う。
限りなく人間に近いアンドロイドと、放射能により(?)知能などが低下したと思われる人間は、どちらがより本物らしいのか。本当に人間だと思われるのはどちらか。
感情があり、美しものを美しいと感じ、必死に生きるアンドロイド。
荒廃した世界で、なんとなく生きているだけの人間。
どちらが生きているといえるのか。
イジドアは、その人間側の象徴として、わき役として描かれていた。
「え、年金って担保に入れられないじゃないですか? 年金を担保に入れたら・・・確か犯罪っすよね?」
一応、若干の知識はあるつもりなので、オークに質問する。
オークの世界には、年金と言う制度はないはずだ。
いや、貨幣の存在すら危ういはずだ。
その割には、よくがんばってるぞ、オーク。
ほめてつかわす。
だから、私に教えろ。
「ぐふ、犯罪じゃないよ。日本で唯一、年金を合法的に担保に入れて借りられる機関があるんだ。たぶん、公的機関だから、合法だよ」
オークがこめかみを揉みほぐしながら、説明する。
駐車場から執務室まで歩いただけで、汗びっしょりだ。
さすがオークだと言いたいところだが、隣の席なのだ。私は女性なのだ。
少しは配慮できないものか。
配慮して、その汗を止めやがれ。
「え・・・初耳っす・・・。そんな事ができるんですね」
「ぐふ、そう、できるのよ、勘弁してほしいよ、いらない制度だよね」
オークはそう言いながら、何やら白い錠剤を取り出して飲み込む。
「何、飲んでんですか?」
「ぐふ、バファ〇ン、これないと死んじゃう」
よくわからんが、バファ〇ンを飲まないと死んじゃうらしい。
優しさを飲まないとだめなのか?
そういえばバファ〇ンは血液をさらさらにすると聞いたことがある。
もしかして、血液ドロドロなのか?
まぁ、ドロドロだろうな。
「年金担保に入れたら、生活できないのに、よくそれで金、借りま・・・え? もしかして、年金担保して、生活保護受けて、年金担保の期間おわったら、また年金担保して、そして生活保護って、できるんじゃないですか? 無限1アップのマリオより凄いですよ!?」
「ぐふ、・・・さすが、よく気が付いたね。だから、うちの福祉事務所では、年金担保で生活保護が受けられるのは1回だけってことにしてるのよ」
「ん? それはそれでいいんですか?」
「ぐふ、いいかどうかは知らん。そうしてるってこと。でも、本当に困っているとき、今回みたいに入院とかするときだけは、その間だけ、生活保護を受けてあげるってことにしてるの」
「・・・それって・・・」
オークが笑う。
ん? 笑ったのか?
気持ち悪いから笑うな。
「ぐふ、教えてほしい」
本当は教えてほしくないが、教えてもらわないと仕事が前に進みそうにない。
くやしいが、ここは引き下がろう。
「ええ、お願いします」
「ぐふ、つまり、入院費だけ、生活保護で払ってあげるってこと。こういう人間はある意味、有名人だから、病院も支払い能力に疑いがあるって、よく知ってるのよ。だから、本当は入院させたくない。でも、診療拒否できるわけないでしょ? 治療しなくて死んだらまずいし。だから、そういう意味でも、入院期間の間の医療費だけは、生活保護でみてるのさ、ぷしゅう」
おぉ・・・よく言えな、オークよ。
長いセリフだったぞ。
「ということは、イジドアは、年金担保2回目をやっちゃったってことですか?」
「ぐふ、そうだね」
「え、そんな年には見えないですけどね」
「ぐふ、えっとねぇ」
片手でこめかみをぐりぐりやりながら、もう片手で資料をめくる。
「ぐふ・・・そうそう、こいつ、船員年金なんだ・・・」
「船員年金・・・?」
「ぐふ、船員は年金支給開始年齢が早いからね・・・」
「・・・へぇ」
世の中、知らないことばかりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます