2 ちょっと回想してるだけ
拓真の言った通り、僕は好きな先輩を追いかけてこの高校に入った。
中学の部活でお世話になったアキ先輩だ。
強くて明るくて、優しい人。当時イキって不良
アキ先輩が部活を引退した日、「じゃあね」と言った先輩の後ろ姿に、もう会えないんだ、と思った瞬間自然に泣けてきて気がついた。
僕は先輩のことが好きなんだ。
アキ先輩が高校に合格したというメールが来たとき、僕は張り切ってこう返信した。
『僕も頑張ってその高校入ります!』
先輩は
『応援してるよ』
と一言返信してくれた。
彼女を追いかけることが目標になった僕は、それを原動力に全力で勉強に打ち込んだ。
その結果、この高校にも無事合格し、できたばかりの友人とうきうきしながら部活見学に回った。アキ先輩はサッカー部のマネージャーで、僕は積極的に見学に行った。
その時、見てしまった。
知らない先輩と意味ありげな、にこやかな視線を何度も交わすアキ先輩。
嫌な予感がする。
仲良くなったサッカー部の人にさりげなく聞いてみた。
「マネージャーの先輩とあの先輩って仲良いですね」
その人は予想通りのことを、僕が心で必死に思い違いだと願っているのも知らず、微笑みながら言ってくれた。
「だろ?だってあいつら付き合ってるからな」
目の前が真っ暗になった。
その人へのお礼もほどほどに、足早にその場を去る。頭が何か別のことを考えようとして、意味もなくスマホを見つめ、ちょっとした段差に何度もコケかけた。
完璧な片思いだ。
翌日、担任に部活動入部届けの提出を半ば強制された。特に考えもなく、紹介パンフレットを見て、てきとうに文化部の一番下に書かれていた部活にした。
僕は既に脱け殻だった。
その後すぐに、二人は別れたという話を聞いたが、もう先輩に連絡しようとは思えなくなっていた。
ある日、アキ先輩から
『今度会えない?』
というメールが来たことがあったが、無視をしたまま、今でも返信していない。
突然なぜ、夢を見せるようなことを言ったのか…。
先輩に対する大きな不信感と、微かな希望が見えた喜びに板挟みにされ、僕は行動できなかった。
なんて臆病者なんだろう。
諦める勇気すらないなんて。
人付き合いが嫌になって引きこもりがちになり、クラスでも独りで小説の世界に浸った。
家では睡眠とゲームを繰り返す享楽を極めた毎日。
逃げてるだけだなんて知ってる。
これが今の僕の正体だ。
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