第15話 中谷浩

「知っているよ、陸上部のエースの名前くらい。」

茶目っ気たっぷりに、朝美は笑った。

笑顔にどきりとしながら、勧められるがまま、教室に入る。扉は自動でぴしゃりとしまった。

促されるまま朝美の真向かいの席に座った。

「さてさて、そんな中谷くんは、こちらにどのようなご用件で」

丁寧な言い方なのが、逆にトゲトゲしさを演出している。

「このクラブの内容を教えてもらいたいです」

朝美はニヤリと笑う。その笑みは妖艶さを持っている。

「佐々木清美さん、田村小夏さんからは聞かなかったの?」

中谷はビックリした顔をしている。

「当て馬部は女子の恋愛相談にのってあげるクラブだよ。相談者の交遊関係はきちんと調べているから、君が二人と仲がいいのはわかっている」

さらりと気になることをたくさん朝美は言っていた。

「学校中で噂になっているような怪しいことはひとつもない」

「恋愛相談ならば何で女子を限定にしてるんですか?」

フフフと朝美は笑う。

「そもそも、大して知らない、しかも能力も運動神経も長けていて、見た目もいいまるで完全無欠のような男に、恋愛相談する同性が何人いるだろうか?」

中谷は大きく同意してしまった。男女共に人気のある人間に相談できるほど、男子生徒のプライドは低くない。

「あとね、君が信じるか信じないかわからないけれど。海藤には生まれながらにして呪いがかけられてるんだ。自分が愛する人には愛されない呪い。彼はあの見た目であの中身なのに、恋を成就させたことがない」

あまりに突拍子もない話を朝美はし始めた。

「そのせいでもう誰にも恋をしないなんて言い出したのが不憫でね。彼のリハビリもかねて女子と関わらせているんだよ。あと実際呪いはすごくて、少しでも彼が好意を抱けば相手は別の本命と結ばれるんだ」

「だからね、当て馬部って名前にしたんだよ」

さらさらと歌うように意味不明な話をしている。

「ただね、海藤は本当にいい奴だからね。海藤に危害を加える奴はこちらでちょちょいと片付けるけどね。それもあって、身辺調査はきちんとしてるんだよ」

あまりにも爽やかな笑顔で朝美は毒をはく。

「君にここまで話したのは、君はきっといい人だと思うから」

朝美はとびっきりの笑顔でそう言った。


その瞬間、扉ががらっとあく。

そこには、海藤がいて、朝美と話している中谷を見つけると一瞬ビックリした顔をしていたが、近づいてきた。

「朝美、もう男子の相談者連れてきてくれたのか?ありがとう」



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