第12話 田村小夏3
小夏は海藤の質問に顔を真っ赤にして怒った。
「さすがにひどくないですか?」
海藤は静かにいう。
「俺も好きになる人には好かれないから、田村さんの悲しい気持ちは少しわかるよ。でも、田村さんの話の主体は好きな相手でも、自分でもなく、佐々木さんじゃなかったかな?」
静かに言われて、小夏は考える。
ずっと清美に憧れていた。凛としてしっかりしていて、それでいて親身になってくれる。
誰からも人気のある清美が唯一一歩下がった場所にいる話題が恋愛のことだった。
皆が皆、誰が好きとか誰と付き合ったと言ってるときだけ、静かに微笑む清美。みんなの相談役にあえてなっていて、恋愛における本心を見せてくれない。
まるで惚れっぽい自分がバカにされてるみたいで。
小夏が好きな人を言ったら、全力で応援してくれる。
ただし、その好きな相手は清美が好きなのはわかっている。
「まるで、敢えて自分が選ばれない方を選んでるように感じるよ」
海藤の言葉は小夏自身が気づいてなかった核心に迫っていた。
「田村さんと佐々木さんは別の人間だし、それぞれ魅力的な部分も違う。田村さんは佐々木さんに憧れているのかもしれないけど、
田村さんは佐々木さんにはなれないんだよ」
当たり前な話だが、なぜかストンと心に落ちる。
「もっと、田村さん自体が田村さんを大事にしてあげたらいいんじゃないかな?だって、田村さんは気づいていないかもだけど佐々木さんは田村さんを大事に思ってるよ」
海藤の厳しい言葉も優しい言葉もきちんと小夏のために用意された言葉だ。
「田村さんと佐々木さんはタイプは違うけど、すごく似ているね」
小夏は今まで誰にも言われたことのない言葉に喜んだ。単純なアドバイスだが、核心に触れた言葉は小夏に頭をすごくクリアにした。
そうだ、私と清美は別の人間なのだから、もっと自分を好きになろう。
それが解決してから本当に彼が好きなのか考えよう。
田村小夏は元気に当て馬部を出ていった。
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