第11話 田村小夏2

小夏の質問を聞いた途端、柔和だった海藤の顔が少し強ばった。

「田村さん。佐々木さんの相談内容は伝えられない。田村さんが佐々木さんと友達だからといって、いや、友達だからこそ、俺からこっそり聞くのは間違ってないかな?」

言葉は柔らかだが、明らかに怒っていた。

小夏は安易に聞いてしまったことを後悔している。

確かにどんなに仲がよくたって、当事者のいない時に人の秘密を暴こうとしていいわけがない。

自分だって自分の相談を誰かに話されたら嫌だ。

「そうですよね。すみません。考えが足りませんでした」

小夏は早口で謝罪する。

海藤はふわっと柔らかく笑った。

「人は簡単な方に流されがちだからね。気になるなら佐々木さんに聞いてみたらいいよ、教えてくれるかもしれない。田村さんの悩みはないのかな?」

「私には悩みがあります。好きな人に好かれないんです」

小夏の言葉に海藤は少し驚いた顔をした。


田村小夏は小柄な生徒である。

朝美も小柄ではあるが、対照的なタイプだ。

朝美は身長こそ小さいが性格は猛獣。

行動力と発言力、存在感がある。

対して田村小夏はいわゆる小動物、妹系の風貌だ。小さくて可愛い、人の後ろに隠れるタイプだ。


小夏はある一定数にはモテそうなのにな?

というのが、海藤の見解だった。

「今まで何人かの人を好きになったんですけど、皆私の友達を好きになっちゃうんです。」

海藤の想像通り、小夏はモテる部類に入る。

入学当初から何人かに告白され、

数人付き合ってみたものの、見た目ばかり誉める恋人に嫌気がさし、別れたり、

想像の性格と違うと振られたりした。

それからはよく知らない相手からの告白は受けないことにした。

佐々木清美といるようになってから、清美のさばさばした性格からか、男子の友人もできた。

その友人を好きになっているのだが、

好きな相手の目線にはいつも清美がいる。

しかも、清美は全く気づかない。


海藤に細かく説明する。海藤は穏やかな口調で語り出す。

「今から不躾な質問をするけど、許してほしい。

田村さんは、その男子が好きなの?」

「それとも清美さんへの対抗心なの?」

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