第6話 佐々木清美
空き教室の前の戸の窓枠に
妙に達筆な文字で当て馬部と書かれている
A4用紙がセロハンテープで無造作に貼られている。
静かに貼られていない後ろの戸の前に移動すると
中を覗きながら、こっそりと横にスライドさせる。
中に入ると空き教室の真ん中に机を4つ繋げて
小学生の頃の班活動のようにくっつけている。
向い合わせの机に既に生徒会長海堂燎が一人で座っていた。
綺麗な見た目の海堂はただ座っているだけでも様になっている。
佐々木清美は海堂に見とれていると
後ろから朝美に声をかける。
「佐々木清美さん、ようこそ、我が当て馬部へ。どうぞどうぞ、遠慮せず、あちらに座ってくれ」
海堂の目の前の席に問答無用で、連れていかれる。
「佐々木さん、何だかご迷惑をかけて申し訳ない」
目の前にいる海堂は静かに謝った。
今まで、遠目に見てすごくオーラがあり
ファンクラブまである海堂は、
意外なことに、平凡な雰囲気の紳士的な男子だった。
「何か恋愛で困ってることがあるだろう?」
対照的に朝美はずけずけとことを運ぼうとしている。
佐々木清美が困り顔をしているのに、海堂は気付き、
朝美に耳打ちする。
朝美はニヤリと笑い、
「あとは、お若いお二人で」
というお見合いでしか聞かないような台詞を残し、
退出していった。
朝美がいなくなった途端、海堂は机を持って少し佐々木清美と距離をとった。
「こんなワケわからない部の最初のお客さんになって困っているよね」
訳のわからない部の部長であるはずの海堂は淡々と伝えてきた。
「あいつはこういう突拍子もないことを企てさせたら右に出る者はいないし、暴走し出したら止められる者はいない」
海藤は遠くの方を見ている。
カリスマ的人気をもっているから、自分のような一般的な生徒のことは下に見ていると思っていたのに、
思ったより、親しみがある。
「佐々木さん応募してくれたということは何か悩んでいることがあるの?」
優しい口調で声をかけてきた。思わず清美は口を開く。
「実は、友達が応募すると言うから一緒に応募しちゃったんです。友達の方が相談事はあったみたいなんですけど。決まってすぐに、浅美さんに交換してもらえないか聞いたんですけど、決まりだから駄目と言われてしまって」
話を聞きながら、海藤は盛大にため息をついた。幼馴染みは自分以外にも暴走している。
「そっか。何か本当申し訳ないね。特に何も悩み事なければ、これで解散にしてもいいよ?これ以上君の時間を浪費するのも申し訳ないし」
海藤の言葉を聞いて、清美は少しはっとしている。
目の前にいるこの青年も自分と同様に巻き込まれている。
何とかして悩みをだそうとうーんと唸る。
そして、小さな声を語りだした。
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