女子寮の管理人をすることになった俺、住んでる女子のレベルがとにかく高すぎる件。こんなの馴染めるわけがない。

夏乃実 (旧) 濃縮還元ぶどうちゃん

第1話 女子寮に

 現在、主人公の口調を変更しております。

 45話より未修正ですので違和感が発生するかと思いますがご了承ください。

 申し訳ございません。



 ****



 桜が満開になる季節。4月。


「ねえ蒼太そうた。あんた仕事辞めて少し経つでしょ。手が空いてるなら来週から手伝って欲しいことあるんだけど」

「全然いいけど……手伝って欲しいことって?」


 母親の理恵りえ、父親の真一郎、息子の蒼太で夕食を囲ってる最中である。理恵は唐突に口を開いた。それはテレビの音を払うかのように少し大きな声で——

「先日、静子おばあちゃんが入院したのはあんたも知ってるよね? 持病の悪化で」

「うん……って、まさか」

 静子おばあちゃんとは理恵の母親に当たる人物。この時点で蒼太は何を言いたいのかを察する。

 過去に何度か聞いていた話があったのだ。

 話の導入と雰囲気、この2点からソレだと勘ぐるのは容易なことである。


「そのまさかよ。静子おばあちゃんが持病で入院しちゃったから管理してる寮、、、、、、に人が足りなくなったのよ。今までは私と親戚がそのサポートに出てたからなんとかなってたけど、お互いにその分休みが取れなくなって本当に大変なのよ」

「だ、だから俺に代わりを……ってことだよね?」

「そう言うこと。夜中に警備する人も探してる状態だから泊まり込みで」

「ん……はっ!? 泊まり込み!? 情報増えてるんだけど!」

「流れ的にそうもなるでしょ。説明ありきで話してるんだから」

「はい……。そうでした」


 いちいち驚かないで。と言いたげの理恵の顔に圧負けする蒼太。

 母親のこんな顔には二の句も継げないものである。黙々と料理に手をつけている父、真一郎を置いて二人で話を進める。


「この仕事なら月残業時間3桁近くのブラック仕事〜ってわけじゃないんだし、あんたの言うホワイトな仕事が見つかったもんじゃない。オイシイ話でしょう?」

「ひ、否定はしないけど……さ?」

「でしょ? 静子おばあちゃんが退院するまで働き口が見つかったわけだし……まあ私が一番助かるから口酸っぱくするわけだけど」

「本音もありがと」

「もし良かったら静子おばあちゃんが復帰した後も引き続き寮で仕事出来るように掛け合うこともするわよ」

「……うーん」


 こう言われると弱る蒼太。

 以前、クリエイティブ業界で働いていた蒼太だがその仕事は激務中の激務。人件費を削り、定時じゃ終わるはずのない限界の人数で行なっていた。

 理恵の言う通りに月の残業は3桁いくかどうか。職場に寝泊まりする日々を過ごしなんとか3年間耐えた結果、23歳で退職した。

 完全に労働基準法に違反していた会社だったが……訴えるお金もなく、本音を言えば訴える気力も吸い取られていた。円満で逃げたい気持ちしか残っていなかった。

 さらに言えば辞める時に書かされたわけでもある。

『仕事内容は口外しないように』との契約書を……。流石はブラック企業と言うべきだろう。


 もちろん、こんな企業からの契約を律儀に守るわけもなく親に納得してもらうために辞めた理由を伝えたわけである。


 今日は蒼太が帰省して4ヶ月後のこと。

 お金の不安もあり、早いうちに新しい職場に就いた方が良いと思っていた時期に理恵からのこの提供だった。


「た、確かに美味い話ではあるけど荷が重すぎるんだよ。寮の管理人って。早く仕事を探さないとって気持ちはあるけど務まるか分かんないし」

「そんなひ弱なこと言わずにお願い。あんたなら料理も掃除も出来るし問題ないかよ。冗談とか無しにこの二つが出来れば後はなんとかなるから」

「掃除はすると思ってたけど……えぇ、料理も作らないといけないの?」

「朝と夕の二回。それに寮に在籍してるのは5人。それも一人は海外留学中だから実質4人ね。だから作る量もそこまでないのよ」


 今の発言を聞いて、『え? 寮なのに人数少なくない』と違和感を覚えただろう。

 そう、理恵の母親である静子おばあちゃんの持つ寮と言うのは学生寮ではないのだ。学生、社会人を含め10人ほど住むことの出来る共同宿舎を寮と言っているのである。


「あれ、5人しかいないの? 前は7人住んでるとか言ってなかった?」

「大学卒業して二人県外に旅立っちゃったからその分が浮いたのよ」

「なるほど……って、ごめん。話戻すけど俺、凝った料理なんか作れないんだけど。調理師免許持ってるわけじゃないし」

「そんなイタリアンとかじゃなくて家庭料理で良いのよ。寮の子はみんな偉い子だからマズい料理でも食べてくれると思うわ」

「もうそうなったら管理人失格だって……。それにご飯要らないとか言われたら心折れるし」

「でもあんたの料理は普通に美味しいから安心して良いわよ。そこは私が保証するから」

「母さんにそう言われるのは嬉しいけどさ……」


 実家に戻り仕事をしていない今、蒼太は専業主婦(ふ)と変わらぬことを行なっている。

 この内容が出来れば管理人も務まるだろうと言うのが母、理恵の見解なのだ。


「それに、あんたは静子おばあちゃんの孫で、私の息子でもある。この事実があれば寮の子からも警戒されにくいのよ。身元が完全に分かってるわけで」

「まぁ……ねぇ」

「要はあんたのアドバンテージは寮に住んでる子と打ち解けやすいってこと。仕事がしやすいってことなのよ。寮の管理人は信頼信用が大事だから。仕事内容には郵便物、宅配便の受け取りも含まれてるし」

「へぇ……そんな仕事まであるんだ」


 と、関心の声を上げながらどんどん言い包められていることを悟る蒼太。

 仕事を探さなきゃ、なんて気持ちは本気だが、なんの心構えも無しにいきなりこんなことを言われたら躊躇ためらいの気持ちが湧くのは当然。仕事をしたくないと思っているわけではない。

 

「あとはあんたの立場上、寮の子に手を出せないだろうし、出す性格でもないし他の人間を雇うよりも断然安心なのよ」

「まぁ母さんの言いたいことは分かるけど……」

「あっ、住み込みだからお金はたんまり貯まるわよ? 1ヶ月2万で生活出来るから15万円くらい貯金が出るかしら」

「マジ!? それは超魅力的……うーん、だけどなぁ」

 一瞬は惹かれかけるも眉をしかめて渋る蒼太。やはりすぐに決断するというのはそう簡単に出来ることではない。


『時間をちょうだい』と先延ばしにしようと蒼太が口を開こうとした次の瞬間——決定のハンコが押されることになった。


「母さんを助けてやってくれ。蒼太。オレからもお願いする」

「……は、はい。分かりました頑張ります」

 この一家の大黒柱、父の真一郎には反抗することは出来ない。あれだけ尻込みしていた蒼太が一つ返事である。


「わー、ありがとう蒼太。はぁこれで一安心よ」

「よろしく頼むぞ、蒼太」

「了解……」


(ほぼ)強制的なものでもあるがこうなったからには割り切るしかないだろう。

 真一郎の言葉もあるが、ここまで育ててくれた家族に恩返しするのも良い機会。

『よし!』と気合を入れた矢先である。こんな爆弾が投下されたのは……。


「あ、先に言っとくけどあんたが行く寮、女子しか住んでないから」

「ん? なんて?」

 ケロッと言われ、聞き取れなかった蒼太。


「だからあんたの住み込み場所、女子寮だから。もちろん私が話付けとくから安心して」

「……は? 女子寮? いや、それは今の今まで聞いてなかったんだけど……」

「あれ、私言ってなかった?」

「言ってないけどッ!?」

「良かったじゃないか蒼太。この機会に彼女の一人でも作ってこい」

「と、父さん……!?」


 後には引けないと理解するからこそ顔を真っ青にする蒼太。胃がキリキリと締め詰められていた。


 この7日後、来週に知ることになる。

 共同宿舎に住む女子全員のレベルが……ただ一言、ヤバイことに。


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