第285話◇日蝕
魂の魔力炉接続。
それは《
かつて人類は魂を燃やして魔力へと変える技術を生み出し、それを接続者に組み込んだ。
意識の混濁を引き起こす程のダメージと引き換えに、接続者は魔力を生み出すことが可能。
現代ではほとんどの《
失われた能力なのだ。
ミヤビの弟子であるヤクモ、その妹アサヒはこれを魔人戦で機能させたという。
ヤクモ組の場合、その魔力でその瞬間必要な魔法を生み出すという極致にまで至った。だが妹の魂と引き換えの強さを、彼は二度と求めはしないだろう。
そうする以外に生き残る道が無い、という状況でもなければ。
だがアカツキ組は?
彼には既に魔法がある。『吸収』と『放出』という《黒点群》としての魔法。
それは《
その武器に触れねば『吸収』出来ないという制限はあるが、《黒点群》に相応しい破格の魔法。
だというのに、何故そこから魂の魔力炉接続をする必要があるのか。
『姉さん――魔力がッ……!』
理由はすぐに判明。
彼の刃に触れられているわけではない。そもそも魔力炉に刃を突き刺しでもしない限り体内魔力は奪えまい。
だからそう、これが魔力炉接続の理由なのだ。
武器を触れることなく、周囲から魔力を『吸収』する魔法。
――『こうしないと、この魔法は使えない。オレの想像力が貧困な所為かもしれない』
と彼は言っていた。
そうか。
『吸収』の魔法は非常に強力だ。奪った敵の魔力で攻撃することも可能。
だが前提として、『吸収』を発動する最初の魔力はどうしているのか。こればかりは自前のものでなければならない。
だがアカツキはヤマトだ。ヤクモ程ではないが、魔法の才能で他の人種に大きく劣る。
彼の魔力では、精々が自分の持つ武器までにしか『吸収』を纏わせることが出来ないのではないか。
アカツキは観察力と自己の操作に類稀なる才能を有している。
故に、黒点化の際にそれが魔法の『前提』に影響を及ぼしてしまった。
強力な魔法があっても、自分にはそれを使う魔力がない。
だからこそ他者の魔力を『吸収』するという魔法に恵まれたが、だからこそ自分の武器からしか『吸収』出来ないという制限を生んでしまった。
黒点化は《
二人の内面を汲み、訪れる強化。
アカツキは賢いからこそ、その『前提』を崩すことを想像出来ない。
ヤクモが自在に魔法を作り出せるのは、彼が常識に囚われないから。
己の限界を常に更新し続ける少年と、己の器を理解し十全に操る青年の違い。
アカツキは魂の魔力炉接続によって『自前の魔力』を増やすことで、ようやく想像出来るのだ。
『吸収』は武器にしか纏わせることが出来ないという前提を作るに至った魔力不足を解消することで、前提を崩すことが出来る。
つまり、距離を無視して魔力を『吸収』することが可能になる。
「誇っていい、これを使わせたのはミヤビ、あなたが二人目だ」
影響範囲はいかほどか。一度目の発動を済ませた今、奪ったミヤビの魔力で『吸収』は維持出来るだろう。
だがそれとは別に、『吸収』範囲の拡張は魔力炉接続という状態によって保たれている筈。
ならば、長期戦はミヤビだけでなくアカツキにも不都合。仲間思いの剣士は、パートナーの魂を燃やし続けることを望むまい。
『……姉さん、このままでは』
負ける。
彼は――魔力で戦う全ての生物の天敵だ。
東雲暁月。そしてミミ。
ミヤビの魔力は急速に『吸収』され、彼の許へ集う。彼の吸収限界を越えれば大気中に散布され、それ以外は彼の剣に格納されている。
離れる? 論外。距離を保って魔法で削るということ戦法自体が通じない。『吸収』されてしまう。
あまりに離れ過ぎると、彼はセレナが捕縛した仲間の救出に向かうだろう。乱戦はアカツキの得意とするところ。連携の期待出来ないセレナと共闘するのはリスクが高い。
「考えても無駄だ。アークトゥルスにさえ使わなかったこの魔法で殺されることを最期の誇りとして、此処で死ぬしかないんだよ」
「嘘が下手なんだよお前。使えなかっただけだろうが」
この魔法は周辺に影響を及ぼしている。いくら彼が卓越した自己制御能力を有しているのだとしても、これで二度目の使用。完全掌握とは行くまい。あるいは掌握した上でこれなのか。
どちらにしろ、敵がミヤビしかいない状況だというのに、発動範囲が広すぎるのだ。これがアカツキでないならミヤビ組の機動力を考慮してのものとも考えられるが、彼であればミヤビの移動に合わせて『吸収』範囲を変更することなど容易。
しないということは、出来ないということ。
自分を中心に円……いや球を用意するような『吸収』領域。
問答無用で吸い取るようだから、《アヴァロン》戦では使えなかったのだ。アークトゥルス組以外にも多くの騎士がいたし、そもそもランタンの屍騎士まで無効化してしまうから。
なによりも、あの場にはヤクモ組がいた。
魔法の発動・維持には集中が必要。周囲の騎士達から魔力を奪いつつトオミネ兄妹を相手取る程、アカツキは愚かではなかったというだけ。
――つまり、こうするしかねぇ。
『姉さん……?』
アカツキは《アヴァロン》でこの魔法を使わなかった。それが最善でなかったと判断した。
だから、その状況を再現する。
「……無駄なあがきだ」
「人のやることに一々否定的なこと言うんじゃねぇよ。だからモテねぇんだお前は」
「あなたにだけは言われたくないな」
アカツキは可笑しそうに笑っている。
アカツキの『吸収』領域内で次々と火花が散り、爆炎が起こる。
大量の魔力を動員しての魔法攻撃。ただし狙いはアカツキ本人ではなく、彼の領域の圧迫。
大勢の騎士から魔力を『吸収』する面倒を、《
「……オレの疲弊より、あなたの魔力切れの方が――」
「だから、否定すんじゃねぇよ。気分悪ぃだろうが」
次にミヤビが選んだ行動に、アカツキもチヨも驚愕する。
「正気か……?」
『姉さん!?』
ミヤビは大剣のみで、アカツキに向かって疾走。
「魔力の優越は最早なく、あなたの魔法は奪った魔力で防げる。サムライを気取って死ぬつもりか……失望しそうだよ、《黎き士》」
アカツキがそう考えるのも無理はない。
彼は短時間ではあるが、ヤクモ組を除く全世界の戦士にとっての天敵となれる。
それはかつての姉弟子であり、ヤマト最強の領域守護者であり、《
だからこそ、此処で逃がすわけにはいかない。
魔王側についた彼は、人類の脅威なのだから。
それから数秒としない内に――血が舞った。
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