第244話◇目的
アカツキという青年が土塊を吹き飛ばした直後のこと。
ラブラドライトは、もう一人の敵である魔人ランタンを見失っていた。
周囲に舞う土煙の所為ではない。
アークトゥルスが屍騎士の全てを無力化したことにより、ランタンは操るものを失った。
一瞬、死者と同様に彼女も灼かれたのではと思ったが、違うだろう。
だが、そう考えるのが自然に思えるほど、魔力反応を絞っているのは確かだ。
『なんか、変』
頭の中に響く、妹の声。
ラブラドライドは胸中で同意する。
変。つまり、魔人らしくないのだ。
そもそも木箱に身を隠すというところからして、プライドの塊である魔人らしくない。
どちらかといえば、一行が《アヴァロン》に辿り着くまでに襲撃してきた幾人かの魔人の方が、一般的な魔人らしいといえるだろう。
能力を隠したとしても、それは戦略ではなく傲慢からで、人間相手に身を隠すことなど決してしない。
童女にしか見えないランタンという魔人は、これまで遭遇してきたとは、あまりに印象が違った。
「こほっ」
と、咳き込む音。
ラブラドライトは瞬時に『風』魔法での拘束を試みる。
魔力反応がないから《
パートナーを失っただけの《
「う」
見ると、それはランタンだった。
空中に拘束された彼女は、幼い顔を苦しげに歪めている。
どうやらアカツキが魔力を吹き込んだ魔石を取ろうと動いていたようだ。
日中で魔力炉が働かないことを思えば妥当な行動にも思えるが……。
アークトゥルスが屍騎士を一掃するまでそれを操っていたからには、魔力があった筈。
――衝撃で魔石を失くしたのか?
日光で魔力炉が働かない分を魔石でカバーしていたが、それを落とした?
「離せ、人間」
キッとこちらを睨みつけるも、宙に縛り付けられている状態では効果的とはいえない。
「お断りだな、魔人」
「ならば殺せ」
ランタンが身体から力を抜くのが分かった。
諦観を示すかのような無抵抗。
「諦めが早いんだな」
「元より長く生きられるとは思っていない。どうせ私はハズレモノだ」
そのとき、すぐにトドメを刺さなかった理由は分からない。
興味が無かったといえば嘘になる。
自嘲するような薄笑みが気になったのもある。
だが、明確にこれというものを見つけられない。
「ハズレモノ?」
気づけば声に出していた。
「もう話すことはない」
「いや、ある。お前達の組織の規模や目的、本拠地を何処に置いているかを知る必要がある」
「この戦闘の最中にか?」
『ヤクモ、助けなくていいの?』
――アカツキとかいう男は、この女を気にかけていた。
捕まえておけばこちらに意識を割くかもしれないし、殺せば驚きなり怒りなりで心が乱れる。
ならば、殺すタイミングこそがヤクモ達の助けになる。
「僕達の都市で同じことをされたら堪らない」
今回の敵は、一体の魔人と一組の戦士。
戦力に対して人的被害が大き過ぎる。
彼らのような者たちがある目的を持って集まっているというのに、人類側には何の情報もない。
情報が得られるのならば、それは決して人類の無駄にはならない。
ランタンはしばらく考え込むような顔をしたが、やがて馬鹿にするように笑った。
「私についてならば、話してやろう。どうせ後は死ぬだけだ」
いかなる思考があったのか、彼女は応じることにしたようだ。
アカツキは再度問う。
「ハズレモノとはどういう意味だ」
ランタンは吐き捨てるように応える。
「無能のことだ。魔人だというのに、肉体的魔法的強さを持たない。人間であれば太陽稼働に貢献出来ない者」
それから、嘲るように口許を歪める。
「貴様らは、そんなハズレモノにこれだけの被害を受けているわけだ」
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