第245話◇起動
考えてみれば当たり前のこと。
人類側でも、魔力炉の性能不足を理由に壁外行きとなる者がいる。
『普通』の枠に入れない者が。
魔人の側にも当然、そういった存在がいるだろう。
ただ、そういった存在は人類の目に触れることなく淘汰されるから気づかないだけ。
いるのだ、魔人にも。
魔人側の『普通』から弾かれた者が。
だとしても。
「そんなハズレモノの、目的はなんなんだ」
「言葉にする必要があるのか?」
「答えろ」
風の拘束を強めると、ランタンが苦しげに呻く。
彼女はラブラドライドを睨みながらも、答えは口にした。
「ハズレモノであろうと、存在を許される場所だ」
やはり、同じだ。
才無き者でも、捨てられない都市。
大元の想いが、ラブラドライトと同じなのだ。
だが同時に、大きく異なる部分がある。
「その為に、自分よりも弱い奴らから欲しいものを奪うのか」
ラブラドライトは証明しようとした。
才能が足りなくとも、才能溢れる者に勝つことは出来るのだと。
だがランタン達は騎士を殺し、都市の襲撃している。
「嫌味な奴だな。この状況を見ろ、私はとても強いとは言えない」
『ラブ』
妹がラブラドライドを呼ぶ。
上空から膨大な魔力が降ってきた。
アカツキの魔力攻撃だ。
それをアークトゥルスが防ごうとしていた。
アカツキはランタンが囚われていることを知っているのか。
あの男のことだ、把握してるだろう。
少しでも意識をこちらに割くことが出来れば、それがヤクモの助けになる筈だ。
「《騎士王》の魔力は凄まじいな。ここまで大規模な魔力放出が連続すると、魔力感知も鈍るのではないか」
ランタンが言う。
確かに、常時よりも捉えづらくなっていた。
周囲に魔力が満ちている所為だ。
「ところで人間、貴様は接続者の機能について知っているか?」
「……何?」
唐突な話題に、ラブラドライトは訝しむ。
「闇の中で戦う為に、かつての人類が生み出した技術の一つだ。魂の魔力炉接続。自身の生命力を魔力に変換する術」
「それがどうした」
「人類はその技術を、ゼロから編み出したと思うか?」
『ラブ』
言葉少なに、妹が注意を喚起しているのが伝わってくる。
「逆なのでは、と少しでも考えたことはあるか?」
逆。
人類が、闇の中で戦う為に生み出したのではなく。
魔人が、光の中で戦う為の機能を模した?
世界が夜で固定されて以後、魔人にはその機能を使用する理由が失われ。
理由の消失の果てに、使用もされなくなった。
だが、それが必要な者がいれば。
普通の魔人にも交じることの出来ないハズレモノが、そこに目を付けたなら。
魂の魔力炉接続による精神の消耗は、機能に人類が耐えられなかっただけ。
魔人であれば耐えられるのか。
だとしても。
「もう、死体は無い」
そう、彼女が操れる亡骸は、既に全て灼けて消えてしまっている。
ランタンが唇を歪める。愉快げに。
「何故私が、あちらへ戻ろうとしたのだと思う」
土塊が浮いていた場所。
てっきり魔石狙いかと思ったが。
『ラブ……!』
滅多に声を荒らげない妹の叫び。
「……っ!」
回避はなんとか間に合った。
ラブラドライドの咄嗟の後退直後、一瞬前まで彼の頭があった位置を何かが薙ぐ。
着地しつつ、ラブラドライドはそれの全体像を視界に収める。
土塊内部から、それは出てきた。
細身で、長身では足りない程の全長を誇るそれは、人型。
人型だが、人間ではない。魔人でもない。
そもそも、これは生き物なのか。ラブラドライドには判断がつかなかった。
分かるのは、それに魔力炉があること。
ランタンの意思に応じて、突如として動き出したこと。
彼女の魔法は死体を動かすもの。
であれば、土塊内部に死体を埋め込んでおいてもおかしくない。万が一の為に用意していたのだろう。
だがこんなものは、見たことがない。
「人類は魔人を殺す為に多くのものを作り出した。これはその一つのようだ」
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