第188話◇師弟
ミヤビの動きは迅速だった。
今回の作戦に召集されたメンバーの情報を提供すると、即座にそれを運用。
コスモクロア、ユレーアイト姉弟には『風』魔法応用によって、声を大きくより遠くまで届くようにしてもらった。その上で、都市中に都市奪還の報を知らせた。
優れた魔力炉を持つなど《
該当者はコースの人形に先導される形で続々と中心部へ現れる。
セレナが言うには混血の子供達はカエシウスの実験成果。
「少なくとも前逢った時はやってなかったよ。暇すぎていかれたちゃったのかな」
比較的最近始めたことなのか、あるいは失敗作の烙印を押された過去の被害者達は消されてしまったのか、子供の姿が目立つ。
この件にセレナは一切関わっていないという。
ルチルの『看破』によって真実だと判定された為、疑う余地はない。
《
魔力炉に優れた者は模擬太陽稼働や魔石の為、《
それぞれ生かしていたのだ。
《
助かったことを喜ぶ者、遅すぎると怒る者、心の壊れてしまった者。
中には我が子の安否を気にする者もいた。魔人との間に出来たとはいえ、自らが宿した命を愛おしく思える者もいた。
混血の子供達はカエシウスの魔力による命令強制が効いていた所為で、意識を取り戻すや戦闘を再開しようとする者ばかり。
命令強制分の魔力が尽きるまで閉じ込めておくしかないのかという躊躇いはしかし、必要なくなった。
セレナが命令を解除してくれたからだ。
混血の子供達にはある特徴があった。人間状態の欠陥が大きい程、武器性能が高い傾向にあったのだ。
これは、通常の《
魔人と人類という異なる種族による交配の、歪みとでもいうのか。
セリという童女は奇跡的に肉体面での欠陥を抱えずに済んだ例だが、同時に武器性能があまりにも低かった。
カエシウスは彼女を失敗作と断じ、同時にある面に着目した。
セリは、混血にも欠陥を持たない個体が生まれてくることの証明。
どうにかして、混血が抱える欠陥を解消することに利用出来ないかと考えたようだ。
だから一人だけ別の場所に、カエシウスにより近い場所に閉じ込められていた。
「ヤクモくんの役に立ったかな?」
セレナの声。
想像以上に、彼女は人類に貢献してくれている。
ただ、無償の奉仕などでは決してないだろう。
「あぁ、ありがとう」
感謝を込めて言う。
何を考えているにしろ、彼女は魔人だ。
魔人で、協力者だ。
協力者という関係を彼女の側から壊さない限りは、そう扱う。
重要なものと言えば、後は魔石か。
カエシウスが腰に吊るしていた袋の中身だけでも相当な魔力が込められていた。
残りは尖塔内部頂上付近に設けられた彼の私室に隠されていた。
半分を《エリュシオン》用に残しておいても、充分以上に《カナン》の魔力不足を補える量。
角を持った者はセレナ含め尖塔内部に移動してもらっていた。
どのような扱いになるにしろ、今この時に受け入れてもらうのは難しいだろうから。
簡単な経緯は移動前に『風』魔法を操る姉弟が済ませてくれている。
この都市に今必要なのは、みなを纏める者と、みなを守れる者。
指導者と領域守護者だ。
後者の候補達がずらりと尖塔前に集まっていた。
ミヤビを見た者の中にはヤマト民族の姿に眉をひそめる者達もいたが、彼女の後ろに並び立つ隊員達の姿や、魔力探知などによって単なる夜鴉でないと察したらしい。
ヤクモは政治や壁内での生活に疎い。
師に任せることにした。
「……今回は、恐ろしい程に上手くいきましたね」
アサヒの言いたいことはよく理解出来た。
かつて闇の中で、壮年の魔人相手に多くの正規隊員が命を落とした。風紀委の《班》はギリギリの戦いを経て、辛くも勝利を収めたのだ。
言葉では分かる。
立場が逆になっただけ。
闇の中で強い者と闇の中で弱い者の戦いが、光の中で弱い者と光の中で強い者の戦いになった。
奇襲の形をとれたのも大きい。連携も上手く嵌ってくれた。
魔人達が弱かったのではない。彼らが全力を発揮できぬ形でこちらが戦い、勝ったというだけ。
それにしたところで、だ。
今回の作戦で討伐した魔人の数は二十にものぼる。
信憑性を疑われる結果だ。
カエシウスは部下全員の反乱にも対応出来る力を持っていたという。いつ誰に裏切られても対応出来るように。
そうなると、万全のカエシウスは魔人二十体を単騎で殺しきれる者だったということ。
改めて、模擬太陽稼働やミヤビ組の存在をありがたく思う。
兄妹だけで戦うことになっていたら、最悪アサヒが魂の魔力炉接続を行う事態に発展したかもしれない。
都市の復興には時間が掛かるだろうが、途方もない年月という程でもない。
魔人の指示があったとはいえ、この都市は人間の街として充分に機能していた。
そんなことを考えている内に、話がまとまったようだった。
相性などを見つつ、立候補した者達同士でタッグを組んでもらう。
そして増援がくるまで都市の防衛に協力すること。
適性、相性はクリストバルとアルマースが中心となって判断した。『光』繋がりだ。何かあるのだろうか。
「その服、気に入ったか?」
人垣の中心から脱したミヤビが、ニタッと笑いかけてくる。
「師匠が用意してくれたそうですね」
「粋だろう?」
「自分で言うのは無粋では?」
「アサヒ、不満なのか? 胸囲もぴったりつるぺたりだろうが」
巫女服風の装束は妹によく似合っているが、確かに胸の部分に膨らみはない。
「わけのわからないことを言わないでください! キッツキツですから!」
悲しいことに師の言葉の方が正しいのだった。
「ま、予選突破の祝いだ。受け取ってくれや」
そう言って師はまた人々の許へ向かおうとする。
「誰かに聞いたんですか?」
呼び止めるように声を掛けてしまった。
師は首を振る。横にだった。
「いや? 勝ってると思っただけだ」
彼女はあっさりと、適当にも見える態度でそう言うと、すぐに歩き出す。
《
だがヘリオドールのように制服姿の者もいるわけだ。
ヤマト民族が戦っていることを喧伝する意味合いもあってのことかと思ったが、ヤクモの思考はそこにない。
予選突破の祝いといった。
だが兄妹の服は、ツキヒ戦が始まるよりずっと前に作り始めていた筈だ。
クリードを倒した後のどこかだろう。
師は確信していたのだ。
弟子が予選を一位通過するものと。
それが嬉しくないと言えば、嘘になってしまうだろう。
唇が緩む。
「粋というか、気障では?」
呆れるような口調だったが、この時ばかりは妹の表情も柔らかかった。
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