第122話◇推参
ヘリオドールとテオは存命の《|黎明騎士(デイブレイカー)》の中では新米にあたる。
《|黎明騎士(デイブレイカー)》になる方法は単騎での特級指定撃破。
だが現在、領域守護者は《班》で動くことが基本。
故に普通の領域守護者が黎明を迎える騎士に任ぜられることはほとんど無い。
《カナン》で言えば、可能性があるのはグラヴェル=ストーン・ルナ=オブシディアンペアのように冠絶した実力を持つ者。
実際はミヤビ=アカザ・チヨ=アカザペアのように都市の廃棄を経験する中で一対一の状況に陥った者が半数以上を占める。
特級指定に単騎で勝利する為には《黒点群》が欠かせないとされる。
いまだに黒点化の条件は解明されていないが、当人らは感覚的に理解していた。
必要なのは、魂の
心を一つにするだけでは足りない。
自分の弱さや脆さを知るだけでは足りない。
進化するより他に生き延びる術は無いのだと悟る程の、大きな絶望。
最後にもう一つ。
両者揃って、絶望に屈しない心。
だから、《|黎明騎士(デイブレイカー)》は量産出来ない。
前二つだけでも、現代の領域守護者には難題だ。
絶望だけならば、ある日突然降ってくることもあるだろう。
最後の条件は、人が思う以上に困難だ。
希望を失ってなお、即座に立ち上がることの出来る人間などそうそういない。
だからこそ、ヘリオドールは他の《|黎明騎士(デイブレイカー)》を尊敬していた。
人間的にどうしようもないミヤビにさえ、敬意を抱いている。そうでもなければ意見を求めに訪ねたりするものか。
そして、ヤクモ=トオミネ・アサヒ=トオミネペア。
彼らはおそらく、《|黎明騎士(デイブレイカー)》史上初めて対魔人戦以外で覚醒した者達となるだろう。《黒点群》持ちと言い直せば、既に史上初確定だ。
それだけで、彼らの覚悟が知れる。
学舎で行われる大会の予選で敗退することは、彼らにとって死や都市の廃棄に等しい絶望だったのだ。
彼らは絶望に襲われながら、自らの弱さを認め、吐露し、真に心を一つにした上で再起した。
あの若さで、なんたる心の強さ。
ミヤビが気に入るのも頷けるというものだ。
そればかりか、魔人にさえ魅入られるとは。
地上に叩きつけられたセレナを見下ろしながら、こちらも下りる。
少し離れたところに二体の魔人の反応と、複数の人の気配。
光源がぽつぽつと宙に打ち上げられた光球だけなのでよく見えないが、老人のようだ。
『一般人ですか。避難途中で魔人に捕らえられたのでしょうか』
「……あぁ」
そのようなことをするだろうか?
限界はあるが、魔人は殺した者の魔力炉性能分、自身を強化することが出来る。
その点で言えば老人は論外だ。
加齢による魔力炉性能の低下も極まっているし、そもそも殺すのではなく捕らえるというのが――魔力炉性能?
気づく。
老人らからは魔力をほとんど感じない。年老いたことによる魔力炉の衰えにしても酷い。
元の性能が低かったのだろう。
「……ヤマトか」
『っ。ではトオミネ兄妹用の人質、ということですか』
魔人らしくない。
人間を見下している彼らは、非道ではあっても卑劣ではないことが多い。残虐ではあっても卑怯ではないことが多い。
つまり、人質をとって他者を従わせるようなやり方は好まない。
あるとすれば、従わせることが目的ではなく、従わされた人間の反応を楽しむことこそが目的、という可能性だろうか。
刹那的で嗜虐的なセレナならば、充分有り得る。
『厄介ですね。救助しようにも二体の魔人がつかず離れずです』
老人らを土の棺に収めることで魔人から隔離・保護するという手段もあるが、何分ヤマトの民だ。
この暗さと魔力反応の弱さが重なり、上手く囲えるか分からない。
「どこ見てるの?」
「――――」
「ちゃあんと、ご主人様を見てないとだめだよねぇ? 折角遊んであげてるんだから、さ」
セレナが立っていた。
土塗れになっているが、負傷は既に治癒しているのか傷は見られない。
自分達は確かに、彼女の魔力防壁を砕いて天槌を下した筈。
『……膨大な魔力を、身体強化と高速再生に回したんです』
身体能力を引き上げる魔力強化を施し、ただでさえミヤビに灼かれながら死なずに行動出来るだけの再生能力を全開にした。
こちらに向かって微笑んでいる。
「倒せると思ったの? 勝てると思っちゃった? かーわーいーいーなぁ。哀れだなぁ」
特級指定魔人の殺意が凝縮され、そしてそれが解き放たれる――寸前。
世界が輝きを取り戻した。
「――――っ!?」
魔人らが表情を歪め、驚愕する。
「太陽……だと!?」「有り得ない、魔力は全て奪った筈」
「あの女っ、また邪魔してッ!」
二体の魔人が動揺する中、セレナが忌々しげに叫ぶ。
そして。
「みんなから離れろ」
魔人の首が飛んだ。
雪の色をした、白刃が。
音もなく首を狩る。
「邪魔」
そしてもう一人。
こちらは気怠げに振るわれた刃だが、太刀筋は鋭い。
ヤクモペアと、グラヴェルペア。
太陽に目を灼かれた二体の一瞬の隙を見逃さず、討伐して見せたのだ。
セレナは苦しげに頬を歪めながらも、どうにか微笑んだ。
「……あえて嬉しいよ、ヤクモくん」
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