第121話◇大槌
「いかがいたしましょう、セレナ様」
セレナはヤマトの老人らを一瞥する。
みな一様に怯えて震えている。
「どうしようかなぁ。全部処分して
ヤクモを手に入れるのは前提。
どのような感情にさせるかが悩みどころだった。
「どうか」
部下に首根っこを掴まれた老婆が何事か言った。
「なに?」
セレナはつまらなそうに訊く。
命乞いでもしようものなら、一匹二匹殺そうと思った。
ヤクモは怒り狂うだろうが、そんな姿も見てみたかったし、その方がこちらの本気も伝わるだろう。
「どうかご勘弁を」
「だから、なにを?」
首を引き千切る準備をする。
「夜雲ちゃんと朝陽ちゃんを、どうか苦しめないでくだされ」
「……あぁ、もう」
つまらない。
今にも失禁しそうな程の恐怖に震えながら、心配ごとはサムライとカタナの心とは。
「きみたち、みんなそうなわけ? ちょっとおかしいんじゃない? 今、死にそうなのはきみたちなんだよ。ヤクモくんの心配なんかしてる場合じゃないでしょ」
老婆は「どうか……」と懇願を繰り返す。
興ざめだ。
部下に命じる。
「ヤクモくんが来るまで、逃がさないでおいて」
「奴が現れたら、どのように?」
「人質にでもして、セレナの命令を待つこと」
じきにヘリオドールが下りてくる。
その相手をしなければ。
ヤクモのことだ、きっと家族の安否を確認するまで都市中を駆け回るだろう。遅かれ早かれタワーにくるはず。クリードと遭遇でもして、負けていなければだが。
あとは銃の子と、魔力操作が巧みな子も見つけたい。
配下の二名は不服そうな顔をした。
「……ヤマトの戦士一匹、我々でも充分に屈服させられますが」
人質などを用いるまでもないと言いたいらしい。
自分達の実力ならば、ヤクモを相手取れると主張したいのか。
「あはは」
冷笑が漏れた。
それだけで、部下の二人は「失礼しました」と姿勢を正す。
「うん。飼い主に意見した愚かさを、許してあげるよ」
求めているのは愛らしさと、従順さ。
それ以外は要らない。
愛玩に値しない要素など、求めてはいない。
「じゃあ、よろしくね」
それだけ言って、空を見る。
ヘリオドールが落ちてきていた。
否、それは落下ではない。
疾走だ。
タワー壁面を再構成し、まるで坂を下るように駆けているのだ。
「セレナ様」
「あぁ、いいよあの子は。セレナが相手するから」
またしても不服そうではあったが、そこは自分の配下である、二度も逆らう愚は犯さない。
「人間は成長するんだっけ? だとしても、世界に適応するには遅過ぎるよ」
黒槍を出現させる。
最早構えるまでもない。
空中に、無数に展開。
外部に高魔力の魔力石を所持したことで、そこから直接魔力を出力出来るようになったのだ。
「現に、きみたちは夜にさえ適応出来ないてないじゃないか」
発射。
ヘリオドールは道を先細りさせながらなんとか土壁を創造。槍を防いでいく。
「一つ覚えだねぇ」
土壁を貫くことによって『貫通確定』の機能は果たされたと判じられる。
対応策としては正しい。
だが壁を展開すれば自身の視界を塞ぐこととなる。
セレナには、その一瞬あれば充分だった。
彼の背後に空間移動。
がら空きの背部。
魔力炉めがけて貫手を放つ。
「どーん」
貫く。
これで終わり。
模擬太陽さえ落ちた今、魔力炉を失えば出来ることなどない。体内魔力もたかがしれている。
「セレナ様ッ!」
地上から配下が叫んだ。
腕が抜けない。
「教えてやろう、魔人セレナ」
ヘリオドールの声が後ろからする。前にいる筈なのに。
「太陽を失おうとも、我らの燈が潰えることはない」
バカの一つ覚えなどでは無かった。
土壁は自分の視界を奪うと同時に、敵から自分を隠すことも出来る。
その一瞬で入れ替わったのだ。
精巧な土人形と入れ替わった。
それを貫かせ、セレナの腕を絡め取った。
空間移動は、対象と距離によって消費魔力が変わる。
そして大地と結合しているものを飛ばすことは出来ない。
それは『世界』という判定がなされるからだ。飛ばすには到底魔力が足らないのである。
土人形はセレナの腕を固定し、その土人形はタワーから伸び、タワーは地面に建っている。
人類領域の壁を空間移動で除去せず穴を穿つという手段を執ったことからの推測か、他に気づく要素があったのか。
「
そして、タワー上部を大槌のように変形させた土魔法が降ってくる。
これもまた前述の理由で飛ばすことが出来ない。
「この……っ」
魔力防壁を真上に全力で展開。
だが間に合わない。
形成途中のそれが砕かれ、即座にセレナ自身にも叩きつけられる。
凄まじい勢いで、その身が大地まで打ち落とされた。
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