第3話 勇者爆誕!?

勇者――それはこの世界で唯一魔王に対抗する事の出来る存在。光と闇は表裏一体、魔王が生まれれば勇者もまた誕生する……


何もない只真っ白な異空間に光の魔方陣が描かれている。魔方陣の回りには[祈り人]と呼ばれる先祖代々勇者召喚に携わってきた白いローブを着た人間4名が正座をし目をつぶり両の手の平を合わせ祈りを捧げている。


「族長…」


1人の女が祈りを捧げながら言葉を発した。


「何じゃリリ。神聖な儀式の最中じゃぞ。」


「1ヶ月間祈りを捧げても勇者様が召喚されない何て……」


「黙っておれ…時期に勇者様が我らの前に来てくださる。それまでもう少しの辛抱じゃ」


「本当に大丈夫でしょうか…魔王はもう既に誕生したと聞きますし…」


「あぁ…これも神の思し召しじゃ。」


普段ならば魔王が誕生したタイミングで同時に勇者も誕生する。何故ならばこの世界の均衡を保つために神が定めた掟だからだ。

魔王が先に生まれれば人間界が滅び、

勇者が先に生まれれば魔界が滅びる。

常に天秤は平行に保たなければならない。

どちらか傾けばどちらかが崩れ落ちる。この世界とはそうやって今まで出来ていたのだ。

だが今回の魔王はというと……



金色の寝室には魔王にセバスチャンの2人がいた。

「セバスチャン!見てくれ!」


「はい何でございましょう。」


「どうだ凄いだろ!!」


「おぉ…誕生してわずか1ヶ月でワープの魔法を使えるようになるとは…流石です。」


魔王は何もない空間を手でこじ開け歪め、何となく思った場所に移動出来るワープ能力を得ていた。


「魔王様は他に出来る魔法はございますか」


「こんなのはどうだ!」


パチンッ

そう言うと指を鳴らし魔王の足元から頭上までには白い煙が吹き出した。煙が魔王を過ぎ去るとそこには大きめのゴールデン・レトリバーが姿を表した。


「おぉ…変身の魔法まで…」

セバスチャンは少ししゃがみ、その犬を撫で始めた。


「そうだワン!最近メイドに教えてもらったワン!」

犬が口を大きく開け饒舌に喋る。


「流石です魔王様…ですが…」


「何だワン!」


「1ヶ月掛けて覚えた魔法が変身とワープだけなのは少し寂しい気しますね。」


「じゃあ先代はどうだったんだよ!?」


「1週間程で炎熱地獄を」


「何そのいかにも魔王が使いそうな物騒でカッコいい魔法」


「それに比べて魔王様は…」


勇者と戦う為の下準備その1つには魔法を習いに行くという試練があった。誕生したばかりの魔王達は様々な魔族達の協力な魔法を得るために、魔界の王としてその覚悟を示すためその魔族の長達の前で自分の価値観を証明して始めて協力な魔法が得られるハズだった。

だがこの魔王は最初の2週間は結局寝室に引きこもっており、長達に魔法を教えてもらうのが気まずくなった為、メイドには変化の魔法を、セバスチャンにはワープの魔法を2週間かけてそれぞれ会得したのだった。


「何だワン!何か言いたい事があるなら言うんだワン!」


「とりあえずチキるのと語尾を混合するのやめて下さい。」


「ワ…ッ…ワッ…」

ワオーン――


声を震わせ泣き声の用に遠吠えをした。


それから数日が経過した。


「魔王様…そろそろ魔王らしい仕事をしてくれませんか?」

魔王のベットの直ぐそばに杖をつきながら悲しそうに嘆いた。


「どうせ私は何も出来ないんですよハイ…」

声がこもっている。

自分の枕に顔が埋もれるようにして寝転んでいた。


「自分の価値を上げる為には自分から何か動かないと…」


「例えば…?」


「人間界の偵察とかどうでしょう?噂ですが現在人間界にはまだ勇者が誕生してないと聞きますし」


「それだ!!」


魔王は勢い良く飛び起きセバスチャンを指差して立った。


「いいねその仕事!!俺の変化とワープを組み合わせれば最強の仕事じゃないか!!」


魔王は召喚時にも見せたあの自信に満ち溢れた顔をしている。

そう、この魔王、自分の都合のいい事は積極的にやろうとするクズなのだ


「おぉ…やる気になられてセバスは嬉しく思いますぞ…」


「任せなさい!!」


パチンッ

指を鳴らし再びあの白い煙に包まれた。

煙が晴れると14、5くらいの青年の姿に変化をしていた。

服は旅人がよく来ているような青のローブに皮のブーツ、目は赤く少し尖ったような黒髪で人間が見てもおそらく魔族とは全く気付かないだろう。


「セバスチャン!この姿でどうだろう!?」


「えぇ…よろしいと思いますぞ…」


「とうっ!」

魔王はベットから飛び降り華麗に地面に着地した。

そして直ぐキメ顔でセバスチャンの方へと顔を向ける。


「それでは行ってくる!」


空気以外何もない目の前に両手を伸ばし手の甲を合わせ開くと空間が裂ける用に何かが開いた。それは紫色でゆらゆらと揺れており自分の身長と同じくらいだった。


「って、何処に行けばいいんだ?」

魔王がその空間に入る前に聞いた。


「とりあえず、人間界で一番人口の多い

王都マライヤがいいかと…」


「良し分かった!それでは行ってくる!!」

魔王はそう言い残し勢い良く空間に飛び込んだ。魔王が飛び込むと裂けた空間が瞬時に閉じた。


部屋にはセバスチャンが1人残っていた。

「魔王様…そんな元気に…」


下っ端のやる仕事をやらないでください……



「おわっ!痛った!!」

空間が開くと真下に落ちた。

どうやら空中に空間を開いてしまったようだ。


「やべっ尻餅ついた…何ここ…どこ?」

尻を少し撫でハッと辺りを見渡すとそこは真っ白で何もない空間、そして白いローブを着た人間数人に囲まれていた。


「あ、あの…そこの人間…?」

正座をし目をつむり祈り続けている白いローブを着た人間がやけに不気味に見え少しチキりながら声を掛けた。


すると、その声に答えるかの用にその中の1人の女がパッと目を開きこちらを見つめてきた。

「勇者様…」


「は、はい?何て?」

かなりの小声だったためたまらず聞き返した。


「族長!!ようやく勇者様が!!」


他の人間もそれに答えるように目を開きこちらを見つめる。

「おぉ!勇者様だ!!」


「我らの思いは届いたのか…!!」


ゆ、う、しゃ!!ゆ、う、しゃ!!


え…何これ…

何、勇者ってどゆことよ…

何なの人間って!初対面でこれとか怖いんだけど!?

怖くなり目を合わせないように少し下を向く


「魔方陣……?」

「これって…まさか…」


ふと思い出したそれは自分が召喚の際に下に描かれていた魔方陣だった。

そしてセバスチャンの言葉を思い出す

「人間界にはまだ勇者が誕生してないと聞きますし」


って…事は…つまり…


あ、これやったわ…


俺…


勇者になっちゃった……












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