VOICE

ひゐ(宵々屋)

01.誤算

 光り輝く泡は、暗闇と冷たさに押しつぶされるように割れていく。悲鳴も上げず、まるで光が闇に蝕まれていくようだった。波に為すすべもなく流され、散り、割れて、死んでいく。

「そんな――ああ、そんなつもりじゃ、なかったの――!」

 その泡を私は必死に集めた。普段から持ち歩いている瓶に、なんとか採取する。

 けれども泡は流され逃げて、割れていく。目の前で割れていく。離れて割れていく。

「ごめんなさい――ただ私は――!」

 ――ただ私は?

 彼女を苦しめるつもりなんて、全くなかった。

 ――本当に?

「いかないで――!」

 魚の尾である下半身からは、ぽろぽろと汚い鱗が剥がれ、痛みが走った。私の脆く、汚い尾。それでも泣きながら泡を集めた。まるで、お前に泣く資格なんてないといわんばかりに、波が顔に当たっても。

 やがて、海面に漂っていた光は、全て消えてしまった。

 手にした瓶を見れば、中にはなんとか集めたわずかばかりの泡が輝いていた。人間に恋をし、人間と共に生きようとした彼女の無残な姿。大半は消え、残ったのも、これだけ。

 人間の船は、気付けば遠くに浮かんでいた。ここには私一人。

 海の中で泣いても、涙はすぐに消え失せる。

 こんなことを、望んだわけではなかった。

 しかしもう王女は微笑まない。ただ瓶の中にあるだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る