第15話 砂の縁
その日は一日中、
「しかし、本当にクィスが弟子入りしてくるとは思いませんでした」
呆れたような、からかうような口調のユングヴィのつぶやきにクィスはにっと笑う。
「あの
クィスは
「今日作った
「はいはい、ありがとうございます」
「ユングヴィ、これは?」
ユングヴィがおやおやとでも言いたげに、金髪をかき上げ、その一房が緑色の
「君の国の宗教施設だろう? 君が分からないのかい?」
ユングヴィの指摘ももっともだが、
「もし、すいませんが、ここはどなた様を祀っているのですか?」
「はぁ、旅の方ですか? ここは
「ははぁ、
「ユングヴィ、旅の守り神様だってさ、お参りしていくかい?」
「いいね、行ってみよう」
ふと、あることに気が付く。
「ユングヴィ、貴方は別の神様を信仰しているのだろう? 別のところの神様の祠堂、まあ神殿みたいなところだよ、そこにお参りしていいのかい? クィスもユングヴィも
思い返してみれば、二人とも
「固く考える方もいますが、ご挨拶ぐらいしてきても良いでしょう」
こちらの考えを見通したのか、ユングヴィがそう言う。いろいろな土地で商売をしていると、あまり宗教に厳格ではやってられないということだろうか。深く考えずに、三人で祠堂に参拝することにした。
「では、被っているものは脱いで。祠堂の神への礼儀だと思って。そっちで手を洗い、次にそこの香炉にお香を捧げる。それから、神様のところに行く」
教えてから、旅慣れているユングヴィなら参拝の作法など知っているのではないかと思った。だが、始めてしまった以上、クィスに教えるつもりでそのまま続ける。
「何、このおが
「こら、それは
クィスは神経質なほど、
「これが、あんたの神様?」
クィスが
「こらっ、高貴な存在を指さすものではない。そうだ。我々の国の神々の一柱だ」
「XXX?……その辺のおっさんじゃん」
「何か言ったか?」
「いいえ」
最後に
「ほら、道中安全を祈願するお札だ。身につけるか、それが貴方方の信仰上難しいなら、荷物に忍ばせておくといい」
「なんだか君、今までで一番道案内らしい働きだね」
「……ユングヴィ、その言い方はあんまりじゃないかな?」
ユングヴィらは特に抵抗感もなく受け取った。信仰については、どうも
「
突然、
誰だ?
「
なるべく落ち着いた声に聞こえるよう、努めてゆっくりと穏やかに話す。
「やはり
そう言って
「俺たちも負け戦の中、必死で戦っていたのだがな。撤退命令が出て、引いているうちにはぐれてしまったのだ。すっかり迷ってしまい、たどり着いたこの街で部下達と商いの真似ごとをしてなんとか生きているところよ」
「
「
「おお、そうか
「ところで、お前も軍を離れたのだろう? ここで何をしているのだ?」
「え?」
一瞬困惑した。どこまで話したら良いだろうか。このある程度の関係性はあるにしても、そこまで親しいわけでもない戦友たちに。
「
「あ、はい、
元々同じ属にいた
「なら俺たちも護衛として雇ってくれないか」
唐突に申し出たのは、
「俺たちも軍を抜けて正直行く当てがない。できることなら故郷に帰りたいが、我々だけでこの先を行けるか不安だ。旅の成功のためにお前たちの役に立つ! お願いだ!」
どう判断したものだろうか。元は同じ軍の仲間だ。一緒にいてくれれば心強いが、
「申し訳ないが……」
ユングヴィがいつになく冷静に口を開きかけた時、
「
「え? あ? それはできません。私にも助けていただいた恩義があります。私だけというのは……」
「ユングヴィ、都の周辺、いやせめて
ユングヴィが金色の眉毛をひそめる。端正な顔立ちがたちまち曇った。良い表情ではない。ユングヴィの表情を曇らせる雲をかき散らすかのように、言葉を続けた。
「彼らに対しては俺が責任を持つ。前より食費がかかるだろうから、俺の雇い賃を下げてもらって構わない……まあ、それで足りると思っているわけでは……」
ユングヴィはしばらくこちらを困惑した表情で見つめた後、大きく一つ、ため息をした。
「わかりました。君がそこまで言うならいいでしょう。ですが、とりあえず次の街までですよ? これは私の隊商なんですからね?」
次の街というのは、
ふと視線を感じた。振り返ると何を言う出もなく、クィスがじっとこちらを見ている。
「XXX、あんた」
気が付くとクィスがつかつかとこちらに足早に歩いてきた。そして
「いてっ」
「あんた、ここはユングヴィの、XXXの隊商。あんたのじゃない。あんたが来る前は私とあの人で旅してきたの。XXX?」
言いたいことを言ってから、クィスは耳を解放してくれた。
「お友達を助けられてさぞいい気分でしょうね?」
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