第10話 鳥の丘(前)
カンカンカン
けたたましい金属の連打音が響く。
「朝ごはんよ、起きた?」
「もう少し静かに起こして……」
「起きろ、働け、護衛」
やっと動き出したの
「おはよう、良く眠れたかな」
たき火の横に座っていたユングヴィが相変わらず愉快そうににこにこしている。
「これは?」
どうも食べ物らしいが、臭いを嗅いでみるとどことなく臭い。
「遊牧民が作るチーズです。栄養はありますよ」
「?……ああ、
ユングヴィとクィスはぱくぱくと
日が出てきた。金色の光が横殴りに差し込み、遠くに続く砂丘の連なりを一気に燃え上がらせていく。世界が神様に祝福される瞬間があるとしたら、きっとこんな光景が見られるのではないだろうか。
「いや~、ははは……」
「
ユングヴィが
「ユングヴィ殿、私は泣きそうです」
「そうだなぁ……きれいだなぁ……小さい頃からこういうのが見たかったんだよなぁ……」
「XXXXX」
クィスが遠くの景色を見つめながら何事が呟いた。その言葉が誰に向けたものであるかは、
◇
その日、出発してしばらくするとユングヴィが落ち着きなく、周囲を見渡すようになった。正面やや右に孤立した丘が見える他は、どこまでも頼りない緑の斑点に彩られた褐色の大地が続き、どこまでも青い空と覇を競っている。
「ユングヴィ……? 何か?」
また、竜巻でも察知しているのだろうか。ユングヴィが困惑したようにつぶやく。
「おかしい、そろそろ街道が見えてくるはずなんだ」
状況を察したらしいクィスも、馬上から辺りをきょろきょろと見回し始めた。
「高いところXXXX?」
クィスが前方の丘を指さす。
「ううむ……クィスの言うように登ってみましょうか」
どうやら高いところから周囲の地形を見てみようということらしい。重い荷物を背負っているラクダとまだ本調子ではない自分の馬はその辺りに繋いでおき、貴重品を担っているユングヴィの馬のみを連れて行く。丘の一部が急勾配だったためだ。他に旅をしている者もいないようなので、盗まれることはないだろう。わずかな木とまばらな草本が生えているだけの寂しい丘に足をむける。遠くから見ている限り、この丘は大した高さはなさそうだったが、実際に登ってみるとなかなか頂上にたどり着かなかった。中腹から見える範囲では、街道の位置は分かりそうにない。
「ちょっと……ちょっと……待って……お願い」
馬から降り、自らの脚で斜面を登るクィスが肩で息をしながら嘆願してくる。斜面を馬に乗っていると酔うというから降ろしたのだ。だが、ちょっとした丘であっても、いつも馬に乗って移動していた「お嬢様」にはきつかったようだ。いつもは一文字に結ばれた口が呼吸で喘ぎ、周囲を
「旅がしたいなら、無理をしないことと体力を……」
「うっさい! このXXX!」
クィスはここぞとばかりに労わろうとした
「自分が先に丘の上を見てくる」
頂上までは佐成の予想よりもまだ距離があった。だが、頂上がはっきりと視界にとらえられるようになると、この何もない平原で丘の上から周囲を見ることを少し楽しみを覚えていた。次第に足取りも軽くなる。ふと、一瞬、異様な臭いが鼻についた。もう一度、空気を嗅ぎ直すが再度は捉えられなかった。だが、
「まさか……死体?」
戦場で嗅いだその臭いに似ているが、違うようにも感じられた。楽天的な気分は一瞬にして吹き飛ばされる。無意識のうちに刀を抜き、しばらくはそのまま進んだが、歩みを止める。やはり、ユングヴィらと合流して頂上に進むことにした。
「くっそ、臆病だな……」
三人の中で唯一の兵士がこれでは、と情けなく思った。だが、自分はその程度の兵なのだという確信もあった。一人でどうにもならない事態に遭遇するのが怖い。
「おや、どうしたの? 先に行ったんじゃあ?」
しばらくして、ユングヴィらが追いついてきた。ユングヴィの緑色の長袍がこの褐色の景色の中で鮮やかだ。クィスは汗まみれで真っ赤な顔をしており、ユングヴィが足を止めたのをこれ幸いと、必死で息をする。
「一瞬だけだが、嫌な臭いが……。何か感じませんか?」
「……なるほど、微かに死体の臭いがします。それも時間が経ったもののようですね」
ユングヴィは馬に預けていた荷物から剣を取り出す。鞘から抜かれたのは幅広のまっすぐな剣だった。拓では見ない装飾が柄についている。
「XXX?」
何事かと問いかけたのであろうか? 疑問形の口調で話すクィスにユングヴィが何事か話す。おそらくここで待っていろというのであろう。
「頂上はもう少しのようだ。
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