第7話 邂逅(後)
赤茶けた荒地を小さな隊列が行く。先頭にユングヴィが馬に乗り、
動きだしてまもなく、ユングヴィが足を止める。
「何かあったので?」
「なんだこれは……鳥?」
見た感じは
「かなり、大きそうですね、この足跡の持ち主は」
「大きいっ!」
「……
「
ユングヴィの一言に嫌な記憶がよみがえる。また「竜」か。
「はぁ……」
また竜か……
以前、
「頼りにしようかな?」
「言っただろう? 俺が武勇の達人に見えるのか?」
「貴方は兵士でしょう?」
「それで、その人食い鳥とはどんな鳥なんだ? 色とか、大きさとか……」
「そうですねぇ……」
歩きながらユングヴィが人差し指を唇に当て、考えるしぐさをする。
「数年前にもっと西の街で聞いた話なのですが、象をその鉤爪で捕まえて食べるくらい大きく、姿は
ユングヴィは、物騒な話をお隣さんの痴話喧嘩話のようにさらっと、そしてどことなくウキウキと語る。
「象? 昔、都の辺りにもいたという獣の象か?」
「さあ、私は存じませんが……ともかく」
「でかくて凶暴?」
「そうだねぇ……いや、そうです」
ユングヴィは再度にっこり笑う。白い歯に強すぎる太陽の光が反射する。
「それは勝てる、いや人間が戦える相手ではないのではないか?」
「まあ、お話ですよ。それに人食い鳥に勝てないと商売できないのなら、
ユングヴィが言葉を続けようとして、ふと歩みを止めた。
「どうかしたか?」
「あれをご覧に!」
ユングヴィが指差した方向には、彼方まで続く荒れ地が広がっている。遠くの青い山々、その裾野まで続く、頼りない緑が散在するだけの茶色い大地、昨日から変わらない風景だ。その一角がくすんでいる。
竜巻だ!
「距離はありますが、どこか隠れられそうな……」
ユングヴィは周囲を見回すが、手近なところに隠れられそうな場所、例えば大樹や岩の陰のような場所は皆無だった。
「先を急いでかわしましょう」
ユングヴィの声を合図に、少しでも竜巻から遠ざかろうと
いつしか周囲の空気にはごうごうと音を立て、砂が次々と
「!!!」
ユングヴィとクィスに大丈夫か、と声をかけたが、
ユングヴィが何事か叫び、
「一体なにを?」
「ジン! ジンよ! 我の声を聞け! 人より先に生まれ、光を渇望する者よ! 汝、我が前より立ち去れ! アルタンの青い目を……」
ユングヴィの通訳より早く、クィスが言葉を言い終えた刹那、何かが破裂したような音がした。そう思った次の瞬間には竜巻は消え失せていた。
「え……え?」
「竜巻を消したのか? あの子が? クィス? 貴方は道士? 呪術士なのか?」
数は少ないが、
「あれはただの竜巻ではなく、ジン」
このクィスの言葉は
「ジン? 書物に
「貴方の言う
要するに風に化ける妖怪の類ということだろうか。
「では、そのジンとやらをお祓いした?」
「違うわ。竜巻はジンXXX、消すXXXできない。あれを」
クィスが指さした方角を見ると、先ほどまで竜巻がなかった場所に竜巻が生じ、こちらから遠ざかっていく。
「我々を避けるXXX。それだけ」
ぺろりと舌を出し、クィスはにっこりとほほ笑む。どう?私役に立つでしょ?とでも言いたげに。もう一度穏やかな風が吹く。クィスの服は思い出したかのように風にたなびいた。
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